私達は、電子空間の中で、また電子空間を活用して様々な人権問題の解決に貢献していこうと考えています。
その基本姿勢は、常にタイムリーなテーマを追求しつつも、原則を忘れず、明るく楽しく情報を提供しつつも、人権を侵害されている人々の心を置き去りにせず、力強く真実を追い求めつつも、狭量で押しつけがましくなく、人権の実現のために電子空間で可能な限りのことを展開することです。
また、人権を侵害されている個人だけでなく、各界のあらゆる人々が活用できる国際的な視点を持つ人権情報の「ゲートウェイ的なサイト」を目指します。
今日、電子工学・情報工学の急速な進歩とともに情報化社会が加速しています。10年前には語られることもなかったインターネットが連日マスメディアを賑わしています。コンピューターと通信、テレビの融合メデイアであるマルチメデアの可能性も様々なところで論議されています。
これまでの技術革新が人間の筋力を限りなく増幅してきたように電子工学・情報工学を中心とする飛躍的な技術革新が情報革命をもたらし、人間の意識を限りなく増幅しようとしています。インターネットをはじめとする情報の社会的基盤が整備されることによって、多方面でコストと時間が驚異的なまでに圧縮されようとしている中で、その功罪が社会に大きなインパクトを与えています。その「罪」の重要な一つが部落差別をはじめとする差別や人権侵害・扇動などです。これらの「罪」を克服し、「功」の面を推進するためにも電子空間内で発生している人権侵害・扇動に対して、電子空間内での教育・啓発活動をはじめとする人権擁護の取り組みが求められています。
また、情報に関連するテクノロジーは、過去において予想もつかないような変革の口火を切ってきました。情報にともなう社会の急速な変化によって世界観が変わり、世界観の変化がさらに情報環境を変え、ますます世界観も変わるということが起こっています。このような変化に対応した客観的でフェアーなサイバー人権機構が求められています。
ところで、世界の約800の巨大データベースには知識と情報が集約されています。それらにアクセスできるかどうかが、これまでにもまして重要性を帯びています。日本における人権研究もその築いてきた成果をより広く普及させるとともに、隣接科学・関連科学における成果を大胆に取り入れなければ飛躍的な発展を望めないところにきています。たとえば世界の最先端の研究テーマである「脳の解明」は医学や生理学、遺伝子工学等の分野だけでなく、心理学や教育学などの研究者もかなり関わっています。偏見や差別意識は心理学や教育学と密接な関連を持っています。こうした観点からすれば「脳研究」も人権の研究と無縁ではなく、密接な関わりを持っているということができます。
また、人権研究に関わる関連分野においても多くの研究成果が発表されています。これらの成果をこれまで以上に活用できる体制が強く求められています。そのためにも情報化社会を先取りするような情報・研究体制が必要だといえます。情報と通信ネットワークは研究・啓発を支える神経系統であり、末端にまで酸素を運ぶ血液でもあります。それらの一端を担えるよう、私達も多くの人々とともに貢献したいと考えています。
一方、部落差別をはじめとする様々な人権問題の中で重要な位置を占めている識字運動があります。現在においても重要な運動ですが、次の時代の識字率は、単に文字の読み書きだけではなく、メディア・リテラシーといわれています。メディア・リテラシーとは多様な情報を分析する力であるとともに、マルチメディアの技術を自由に使いこなせることであり、これからの「読み書き算盤」にあたります。次代の紙と鉛筆はデジタル機器だともいわれています。私達は、文字の読み書きを奪われてきたこと(非識字)を文化を奪われてきたことと同義だととらえてきました。今、非メディア・リテラシーがこれまでの非識字の連関の中で発生しようとしています。これらの克服のためにも、私達は「情報弱者」を生み出さない情報化を目指して努力する必要があると考えています。
また、これまでの人権は国家を基軸としたものであり、国家からの自由を規定した自由権と国家の保護を求めた社会権として規定されてきました。いずれも国家が中心であり、国家の役割が絶対でありました。この状況は今日においても続いていますが、徐々に変わりつつあります。人権に関わる国際人権諸条約だけで23の条約が存在することでも分かるように国際的枠組みの人権保障が益々重視されるようになってきています。
人権侵害が地球的規模になりつつあることからも国際的枠組みによる人権保障が重要なのです。情報化は時間と空間を超越します。そのことによって、新たな問題が地球規模で生起しています。インターネットは個人が世界中の多くの人々に向かって情報発信する手段であり、情報革命の中心を担っていますが、アメリカ合衆国には、人種差別主義のホームページがたくさん存在し、そのネットワークまでできています。それら人種差別主義のホームページは、ドイツではマルチメディア法によって規制されています。それらドイツで規制された人種差別主義のホームページはアメリカ等の規制のない国に流れていますその場合、これまでの出版物と違って、ドイツで規制することはできなくなります。しかし、インターネットは世界のネットワークであり、ドイツ国民は瞬時にして、そのホームページを見ることができます。つまり、ドイツで規制をしてもその効果は十分ではないということです。国によって表現の自由に関する考え方には大きな違いがあり、国際的な規模で規制することもできません。これら国際化、ボーダーレス化する人権侵害に対応した人権保障システムが求められています。今日の国際人権保障システムだけでは不十分です。インターネットができるまでは、個人が世界中の人々に情報発信することは不可能でありました。
かつて、マスメディアを「第4の権力」と表した人がいましたが、個人がマスメディア的な面を持つことによって、差別的な個人にも大きな力を与えてしまうことになります。そこに既存のマスメディアのように一定の節度や規制が存在していれば、今日のような問題は発生しないが、人種差別主義のネットワークが電子空間で形成されるような状況ではそんなことは期待できません。
情報武装した個人が、情報機器を使って、情報権力を持つようになることをどのように抑制するかは今後の人権問題を考える上で重要なことがらです。これはこれまでの人権侵害事件や差別事件と質的に異なります。
一方、インターネットは人権の伸長や政治の民主化に大きく貢献します。
1995年7月25日付けの東京新聞に、「仏核実験反対インターネットで署名」「80カ国から2万5000人分続々」というタイトルで、興味深い記事が掲載されていました。それによると東大の院生らが7月10日からインターネットに「ホームページ」を確保、24時間使える「伝言板」で世界中から署名を集めだしました。さらに「『グリーンピース』など海外の市民運動グループにも連絡し、インターネット上の彼らのページとも“ボタン1つ”で行き来できるようにしたため、アクセスした海外のユーザーにも、署名活動が広く知られるようになった。」となっています。彼らが用意した呼びかけは英語と日本語だけでありましたが、「外国の賛同者たちが自発的にその国の言葉への翻訳を」追加してくれたという。その結果、見出しにも書いてある数の署名を半月弱で集めることができたのです。もしインターネットがなければ小人数のグループで80カ国からこれだけの署名を短期間で集めることは不可能といえます。
今日のように巨大化した国際社会や国家、地方自治体で人権実現の政治の在り方として個人が直接民主主義を実現することは不可能に近いといえます。しかし先に示したようにインターネットを活用すれば状況は大きく違います。政治に直接民主主義的な要素をかなり反映させることにつながっていきます。また、インターネット政党のようなものが出現してくるかも知れないし、人権NGOの活動にも大きな影響を与えます。
また、21世紀は情報化の飛躍的前進に伴って、現実社会と仮想社会(バーチャル・リアリテイー)を行き来する社会になるといわれており、この仮想社会の重要性を認識した上で表現の自由や人権が新たなパラダイムで論じられる必要があります。インターネットでの様々な出来事はその論議を促しています。そして、これらの情報革命と表現の自由や人権に関わる論議は政治を始めとする社会のあらゆる分野に影響を与えるといえます。
以上、「情報化」「国際化」の速さは私達の予想を大きくうわまわりつつあります。だからこそ私達は、人権問題が社会の進歩、科学技術の進歩とともに、より高度で複雑で重大な問題になっていることに気づき、それへの対処を急がねばならないのです。
そのために、ニューメディア人権機構を設立し、人権の実現に貢献していきたいと考えています。