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シリーズ5回目
「心豊かな老い」
高齢者福祉施設『けま喜楽苑』

「けま喜楽苑」には、高齢者施設につきものの手すりがない。手すりがあれば入居者は壁にそって歩くことを強いられる。代わりに身体の一部となる優れた補助器具を使えば、どこへでも自力で行けるというのだ。そうした高齢者を主体とした柔軟な発想ときめ細かい配慮が、ソフト・ハード両面の隅々にまで活かされている。高齢者の人権が無視された時代から、「障害のある高齢者も心豊かな生活の場を」と人権を追求し続けてきた市川禮子苑長の19年ものケア実績のたまものである。ここを訪れたほとんどの人が感じるはずだ。「こんな高齢者施設が実現できるんだ」「ひとりの人間の思いで施設もここまで変えられる」と。まさに「福祉は人なり」である。

けま喜楽苑・市川禮子さんに聞く


 尼崎市の北東部、まだ周辺に田畑が残るのどかな園田エリアに、特別養護老人ホーム(特養・50人)と痴呆性高齢者グループホーム(18人)からなる「けま喜楽苑」がある。昨年4月、特養の最先端とされる「全室個室」の「ユニットケア」型、さらには日本初のデイサービスとショートステイ専用のフロアがある施設としてオープンした。市川禮子苑長(63歳)にとって、1983年に開設した尼崎「喜楽苑」を出発点に、「いくの喜楽苑」、「あしや喜楽苑」、阪神大震災直後に開いた生活支援型グループハウス「きらくえん倶楽部大桝町」と各施設ごとに試行錯誤を重ねたうえでの集大成ともいえる福祉施設である。

外観の写真
「特養」っぽくないシンプルでおしゃれな外観

「自分の親だったらどうしてほしいか、それを考えただけなんです」

体型に合わせた車椅子の写真
利用者の体型・状態にあわせてぴったり調整できる低床型の車椅子を採用。少々高額でも身体の一部となる補助器具は生活範囲を広げてくれる

 もっとも注目されるのが、「人権を守る」と「民主的運営」という運営方針。素晴らしいのは世間にありがちな見せかけの人権擁護ではなく、あわただしい毎日の暮らしで見落としてしまいそうな「言葉づかい」や「目線」の位置の徹底ぶりだ。

 つい言ってしまいがちな、「早くしてください」「ご飯を食べなさい」といった指示や命令形の言葉は、人生の大先輩である高齢者に使うのは非常識。まして若いスタッフが赤ちゃん言葉で話しかけるなんてとんでもないと、喜楽苑で使われるのは尊敬語や依頼形。食事の準備ができたら「ご飯を食べてもらえますか」、病院には「連れていってあげる」のではなく「付き添いましょうか」。そう話しかければ、本人が主人公になって残っている自己決定能力を働かせることができる。目線も上から合わせると高圧的になるので、水平か下から合わせて話しかける。食事の補助も、同じ高さの椅子にすわって口に運ぶ。そうするとスプーンを上から押し込まないのでのどに詰めることもなく、お年寄りも心がほぐれて、自分からどんどん話しかけられるようになる。
 ただ、言葉づかいの修正は難しく、中途から「言葉の言い直し運動」を始めた施設では、全職員に徹底するまで丸6年かかったそうだ。
 笑顔がやさしい市川さんは「〜してあげるとスタッフが言えば、お年寄りは〜してもらうことになる。これが、医療や福祉界での世話をする側とされる側の非常識な上下関係をつくってきたのではないでしょうか」と鋭い。その一方で、「自分だったら、自分の親だったらどうしてもらいたいかを考えてきただけ。相手の立場に立つ心さえあれば、だれもができることなんです」と女性ならではのきめ細かさを合わせもつ。

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