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 親の温もりや家族とのきずなを知らん子が多いですな。この間、面接した受刑者は、物心がついた頃には施設にいたと話していました。義務教育を終えて、ある家庭に引き取られたんですが、その家で欲しかったのはその子の労働力だけやったというんです。会社勤めを始めたら、給料日には必ず親がお金を受け取りに来る。ずっと我慢はしていたけど、我慢がしきれずに家を飛び出したんです。次にパチンコ屋に住み込みで入ったら、そのうちにまた親に見つかって同じように給料日には金を取りに来る。終いには食費が払えなくなって罪を犯してしまった。刑務所を出たら、どこへ帰るのかと聞くと、「親というたら、その人たちの所しかない」と言いますねん。でも、「今回は保護司が中に入ってるから、小遣いだけでももらうように話をつけなさい」と言うと、承知して帰りました。

黒田さんの写真 去年の暮れに会ったのは、両親が寿司屋やという男の子でしたわ。初めは仮釈放やからといって部屋にニコニコして入ってきたんです。でも、話を聞いてるうちに「家業の寿司屋は継がん」という。私は「子どものうちから走り使いの手伝いぐらいはしてきて、本当に親の苦労を見て育ったんなら、そんなことは言うたらあかん」と意見しました。「それなら他に何をしたいんか」と聞くと、「分からん」という答え。「そんな役に立たん子でも親は引き取ると言うてんやな。親は他にこの子の行く先がないと思うから、不憫やから引き取るんやで。それが分からんのか」と諭したら、しゅんとなってしまいました。「何をするんでも親と相談しいや」と言うておきました。

 刑務所職員の話では、若者が100歳を過ぎた高齢者と接する機会は少なく、まして当少年刑務所では犯罪傾向が比較的深く、心が荒みがちな受刑者が多いため、年齢が近い人には反発があっても、黒田さんのように年齢がかなり離れていると素直になれるのだという。
 昨年、7月には黒田さんが篤志面接委員として法相感謝状の贈呈を受けることになり、所内で贈呈式が行われた。この日、受刑者の弁論大会もあり、それに引き続いて行われた贈呈式で黒田さんが紹介されると、場内からは100歳を超えた黒田さんの活動に感銘を受けた受刑者のどよめきが起きたそうだ。

 ここを出ても行き場のない子もおります。きょう面接をした子は、縁もゆかりもない広島へ行くと言うんです。生まれは熊本やけど、3歳で母親が亡くなり、その時、父親と姉はどこかへ行ってしまったと言ったきり、後は何も話しませんでした。「もし広島に行くなら、今まで働いたお金はプールされてるから、それでまず家を借りなさい。それから、どんな仕事やったら長続きがするかを考えなさい」と。そして「仕事はより好みするより生活ができたら十分やから、そこで落ち着く気になって、家庭をもちなさい。家庭くらいいいもんはないよ」と言うておきました。「あんたも大きくなったんやから自分の人生は自分で切り開きや。親を恨んでもしょうがないで」とも。

入門許可証 この間、面接した男性は大分年齢が上に見えたので、「家族があるんか」と聞いてみると、中学生をはじめ3人の男の子がいるとのこと。「窃盗で捕まって、子どもに迷惑をかけたら悪いと離婚したんや」と打ち明けたんです。近くで暮らすことになるというので、私は「あんた、そんなコソコソ離婚して、それで事が済んだと思うんか。子どもの目くらい恐いものはない。子どもは正確に見とるよ。そやからちゃんと向き合うて、自分の悪かっとことは悪い、これからどうすると話さなあかん」と諭しました。そうしたら20分ぐらいずっと考え込んで、私も20分つきおうてたら、「分かりました」と一言。「避けて通る問題と違う、向き合いよ、罪には罪に向き合いよ」との語りかけに、「はい、分かりました」と言うので、「男に二言はないやろうな」と念を押しておきました。
 どの子も一生懸命聞いてくれます。顔色を見てましたら、応えたかどうか分かる。面接が終わって、しゅんとして帰る姿をみると、ちょっとは分かってくれたかなと感じます。まあ態度で察するしかなくて、その後、どうなったか最後までは見届けるわけにはいきません。それが私たちの仕事ですねん。そう思うと、虚しいなと思うこともあります。50年近くもこの仕事をしていて痛感するのは、「家庭が大事や」ということです。



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