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「施設コンフリクト」。多くの人にとっては、聞き慣れない言葉です。けれども実はあちこちの町で起きている、とても身近な問題なのです。もし、あなたの住む町に障害者施設ができることになったら、あなたはそれをどう受け止めますか? 私たちの人権意識を正面から問われるこの問題について、「自分自身のこと」として考えてみてください。
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施設コンフリクトとは?
+++「施設コンフリクト」とは+++
身体・知的あるいは精神障害者や高齢者のための社会福祉施設の新設計画が、近隣住民の反対運動によって中断、停滞する「人権摩擦」

シリーズ第1回


施設コンフリクト写真 地域生活支援センター『すいすい』をめぐって起きた施設コンフリクト

 JR玉造駅から、徒歩5分。古い民家や町工場、マンションなどが混在し、下町の雰囲気が残るこの町が今、まさに「施設コンフリクト」問題で大きく揺れている。
 駅から『すいすい』まで、のんびり歩いて5分。しかしその道のりは、『すいすい』に近づくにつれて物々しく、険しい雰囲気に満ちてくる。町工場や家々の軒先に立てられた黄色いノボリ。荒々しく「絶対反対!」と書かれた手書きのポスター。ようやく『すいすい』にたどり着き、ほっとしたのもつかの間、目の前のガレージのシャッターにはやはり「絶対反対!」のポスターが貼られている。駅から『すいすい』まで歩くだけで、地域ぐるみで何かを排除しようとする殺伐とした空気や、『すいすい』の孤立を実感させられる。
 なぜ、こうなってしまったのか。「精神障害者への差別、偏見」という理由は簡単に推測できる。しかしマスコミに何度も批判的な報道をされ、大阪市と何度も話し合いを重ねながらもなお、人々がここまで頑なに敵がい心をむき出しにするのはなぜなのか。現実に起きている『すいすい』の問題を追いながら、その背景にある精神障害者に対する国や自治体の施策の歴史やマスコミ報道のありかたも考えていきたい。



地域生活支援センター「すいすい」って何?
精神障害者が住み慣れた地域で自立した生活を送れるよう、さまざまな支援や相談を行う。
大阪市の委託により、HITが運営している。HITとは、東成(H)、生野(I)、天王寺(T)の3区の精神障害者にかかわる作業所、医療機関、当事者、家族、市民などの20団体で構成されている市民団体である。
「大阪市障害者支援プラン」で精神障害者地域生活支援センターは、2002年度までに大阪市内に8ヵ所設置されることになっている。

【地域生活支援センター「すいすい」における施設コンフリクト問題の経過】
(大阪市の記録、1999年9月末現在)

1999年 3月末 地域生活支援センター『すいすい』予算確定

4月19日 建物改修工事着工

5月27日 第1町会住民と市の話し合い

5月28日 第1・第2町会住民と市の話し合い

6月1日 第1町会・第2町会役員と市の話し合い

6月11日 町会主催による市の第1〜第3町会住民への説明会

6月18日 改修工事完了

6月21日 地元住民の『すいすい』前座りこみ及び周辺への反対ビラ貼り行動

6月22日 新聞報道(朝日・読売朝刊)

6月25日 障害者団体(3団体)による第1〜3町会全戸への『すいすい』開設推進ビラ配布活動実施電柱(関電・NTT)の反対ビラ撤去(1回目)

6月26日 新聞報道(朝日・読売朝刊)

7月1日 障害者団体(3団体)による1〜3町会全戸への第2回ビラ配布
連合町会主催の「地域生活支援センター設置報告会」開催

7月5日 連合町会から反対署名(2588名)と要望書の提出

7月9日 連合町会長に要望書に対して回答(施設の白紙撤回はできない)

7月14日 電柱(関電・NTT)の反対ビラ撤去(2回目)

7月20日 反対住民による『すいすい』周辺への反対のぼりの設置

8月3日 毎日TV「MBSナウ」で『すいすい』について放映

8月9日 障害者団体(4団体)による大阪市への要望書提出

8月12日 『すいすい』啓発ビラNo.1新聞折り込み(東成区内 25,000枚 4紙朝刊)

8月24日 『すいすい』の反対運動についての報道(毎日新聞・夕刊)

9月2日 連合町会長と話し合い
『すいすい』啓発ビラNo.2新聞折り込み(東成区内25,000 枚 4紙朝刊)

9月8日 HITから大阪市長に『すいすい』の賛同署名(9,720人分)と業務正常化に向けた要望書の提出

9月10日 町会役員と市の話し合い

9月11日 地元住民と市の話し合い

9月13日 地元住民と市の話し合い

9月21日 住民代表・HIT・大阪市3者事前協議

10月16日 地元住民によるのぼり・反対ビラの撤去

10月18日 『すいすい』のシャッター閉鎖(開始)
第1回 3者協議会(住民代表・HIT・市)の開催

●経過の解説と追加●
 経過を見ると、これまで「話し合い」が何度も重ねられてきたのがよくわかる。しかし『すいすい』を実際に運営しているHITや利用者が同席している「話し合い」は、ほとんどない。事前の打ち合わせでは『すいすい』側も同席することになっていても、当日、会場でいきなり「今日は大阪市と話し合いたいから、帰ってくれ」と門前払いされたことが何度もあると『すいすい』の施設長、岡本雅由氏はいう。「話し合い」と銘打っていても、実際は多くが「反対集会」「大阪市への抗議集会」であり、差別発言も出た。大阪市はそれを認識しつつも、住民側が求める話し合いに応じてきた。その理由として、「開所を強行してしこりを残しては、あとあと活動がやりにくくなる。地域に受け入れられることを一番に考えたかった」というが、強硬な反対住民側に振り回されている感があるのは否めない。ちなみに、こういった障害者施設を開所にあたって住民の同意は必要でないことは、国が明言している。
「話し合い」からことごとくはじき出されてきた『すいすい』とその利用者の気持ちはどうなるのか。白紙撤回を求めてくる住民との「話し合い」をどこで区切りをつけるのか。大阪市に残された課題は大きい。

イメージ先行で、反対運動が起きた 『すいすい』施設長 岡本雅由氏
 正直いって、ここまで反対されるとは思ってもみませんでした。この近くには他にも精神障害者のための作業所が2ヵ所あり、どちらも地域に溶け込んでうまくいってるので、私たちも「引っ越し感覚」でやってきたんです。普通、引っ越しって、越してきてから「よろしく」ってあいさつ回りをしますよね。ところがこういう施設になると、なぜか「事前に説明がなかった」と問題にされるんです。多分、事前に説明しても反対されてたと思うんですけど。
「精神障害者とかセンターという名称をつけるのをやめてほしい」という人もいました。精神障害者は「こわい」、センターは「不特定多数の人が常に出入りする」というイメージがあるんですね。そういう偏見や差別をなくすために啓発するのが行政の仕事だと思うんですけど、大阪市はこれまで経験を生かしてないんじゃないでしょうか。冊子ばかりつくっても仕方ない。行政は人権や差別問題の本質を理解しようとしない人に対して、どう働きかければよいか知恵を絞ってほしい。これはどこでも起きうる問題なんですから。
『すいすい』に関していえば、ようやく直接、地域の人たちと話し合いができるところまできました。これまで誤解されきたことも、直接話し合うことでひとつひとつ解消していくんじゃないかと期待しています。

行政はこう語る
「日常生活のなかでの交流が、最大の啓発」
大阪市環境保健局保健部連絡主幹 林 明氏、
大阪市市民局人権部企画課長 中村一夫氏

 大阪市としても、『市政だより』や『人権だより』を通じて人権意識の啓発活動をしているのですが、どうしても一方的になりがちなのが現状です。これまでの行政の施策やマスコミの報道が、精神障害者を地域から孤立させた原因になっているのも事実です。けれどもすでに、市内37ヵ所に精神障害者小規模作業所があり、約800人余りの方々が働いています。作業所の存在すら知らない人も多いんですよ。反対があった地域でも、とにかく開所し、運営するなかで、反対の声も消えていきました。こうした施設を増やし、日常生活のなかで障害者と交流していくことが最大の啓発だと考えています。
 施設コンフリクトでは、ただ住民の人権意識を糾弾するだけでは、解決は難しいと思います。まずは『すいすい』が地域に受け入れられることを一番に、話し合いをすすめていきたいと考えています。これまで住民側は「我々は『すいすい』に対して文句はないので、話し合う必要はない。行政に対して文句があるのだ」と主張していましたが、やっと運営団体と話し合う状況になりました。大阪市としては今回の教訓を生かしながら、障害者に対する理解を深めていただくための啓発に引き続き取り組むとともに、人権侵害には毅然とした態度で臨んでいきたいと考えています。
 今後の啓発活動については、地域でボランティアを募集し、そのボランティアを橋渡しとして地域と障害者の交流を広げていけるような形でやっていきたいと考えています。    


 紆余曲折を経て、'99年10月中旬から『すいすい』と住民の話し合いがようやく始まった。次回からは、住民側の意見やその後の経過を報告すると共に、施設コンフリクトにかかわるさまざまな立場の人の話を聞いていきたい。

(次号へつづく)


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