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「今日一日を楽しく生きる」のが、笑顔の理由

しんちゃんとお母さんが一緒に授業を受けている写真
しんちゃんとお母さんは授業もいっしょです。(「しんちゃん」 菊池和子著より)

 筋ジスのことを知るにつれて、不思議に思うこともありました。それは、しんちゃんのお母さんの笑顔。かけがえのない子どもが治療法もない難病で、いつも死と隣り合わせという状態にある。それなのにどうして「先生、こんにちは!」と笑顔で言えるのかしら、と。きっと何か精神的に突き抜けたものをもってるんだろうなということは、話をしたり聞いたり、私なりに考えたりするうちに感じてはいたんですが、撮影のためにそれまで以上にしんちゃん親子と過ごす時間が長くなった時、はっきりとわかりました。
 「今日一日を楽しく生きる」ということに尽きるのね。「明日がなくても後悔しない生き方をしよう」と。口で言うのは簡単だけど、大変なことですよ。

布多天神での写真
「あっ! 赤ちゃんだ」布多天神でのうれしい午後になりました。(「しんちゃん」 菊池和子著より)

 とにかく今日という日を楽しく過ごすことだけに集中するんです。たとえばしんちゃんが「今日は回転寿司が食べたい」と言えば、ほかに用意をしてあっても回転寿司を食べに行くんです。「今日は甲州街道まで出て、車を見たい」と言えば、流しに汚れた食器が山積みになっていようが、洗濯ものが取り込んでなかろうが、布団が敷きっぱなしだろうが、車を見に行くんです。「回転寿司を食べさせなかったことや車を見せなかったことで後悔したくない。ほかのことは何とでも埋め合わせできるから」って。しんちゃんと両親は、そうやって一日一日を暮らしてきたのね。
 私はそんな生き方をしてこなかった。自分の子どもたちにも「今、勉強しておかないと後で大変よ」とか、先のことばかり言って。確かにしんちゃんとは状況が違うけど、要求ばかりしてきたなあ、とわが身を振り返りました。
 お父さんの存在も大きいですね。コンピュータ技師で忙しい仕事なんだけど、休みの土日はしんちゃんを丸ごと預かって、お母さんを全面解放するんですよ。平日、お母さんは24時間つきっきりで世話をしていますよね。寝返りも打てないから夜中も1時間おきに起きて身体の向きを変えたりして。だけど週末になるとお父さんがみてくれるから、お母さんは好きなことができるんです。エステとか垢すりとか温泉とか・・・好きなんですよ(笑)。
 だけどお父さんはふだんは働いてるのに、週末はしんちゃんを預かるなんて大変なんじゃないかと思うでしょ?でもそうじゃないんです。お父さんはしんちゃんといると癒されるの。

入院中のしんちゃんを見舞うお父さんの写真
入院中のしんちゃんを見舞うお父さん。(「しんちゃん」 菊池和子著より)

 しんちゃんはドライブが好きだから、たいてい助手席にしんちゃんを乗せてドライブに出かけるのね。「今日は羽田に行こうか」とお父さんが言うと、しんちゃんも「うん」って。それで羽田空港へ行って、ふたりで並んで座って、飛行機の離発着を1時間も2時間も眺めてるの。ノンビリしたお父さんの波長としんちゃんの波長がしっかり合ってるんです。
 「世話している」という感覚はないのね。もちろん食べさせるとかおしっこをさせるということはあるけれど、「一緒にいる」というのが自然。きっとお父さん自身も気持ちいいんだと思います。だから無理がない。そんなふたりを見て、「はーっ」と思いましたね。
 そうしてお父さんとしんちゃんはふたりで楽しんで、お母さんはエステなんかに行って、帰りはどこかで落ち合って、必ず外食を楽しむの。お母さんはビールをたんまり飲むけど、お父さんは車の運転があるから我慢して(笑)。
 そういうのを毎日毎日、積み重ねていく。でもそれは彼らの100%じゃないわけですよ。心の奥にはいつも死の恐怖がある。「楽しい生活がもしかしたら明日で終わるかもしれない」という思いが常にあるんだけど、それを口にすればどこまでも落ち込むことはわかってる。だからこそ一日も早く治療法や薬がほしいと願っているんです。

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