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高齢者

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2003/06/20
現場で手探りしながら、じいさんやばあさんを輝かせるもの


「生活とリハビリ研究所」を旗揚げして18年。人間丸ごととらえた介護論をひっさげて、年間170回もの講演で全国を駆け回る三好春樹さん(52歳)。「人は老いると人格が丸くなるどころか個性が煮詰まり、頑固はますます頑固に、スケベはますますスケベになるんですよ」と飾らぬ口調で満員の会場をどっとわかす。 病院で“チューブにつながれ、拘束され、ただ生きていただけの老人たち”が、介護現場のシロウト集団の手にかかるとなぜ“目を輝かせ、笑顔を取り戻すのか”を、自らの経験や実感から生み出した巧みな言葉と笑いで伝授していくのである。「介護はシッコ・ウンコでなんぼの世界。オムツをいかに上手にあてるかじゃない。オムツをしない工夫をすることなんだ」。

介護は介護力じゃなくて介護術 現場で手探りしながら、じいさんやばあさんを輝かせるもの 生活とリハビリ研究所代表 三好春樹さん

老いとの出会いは24歳のとき、偶然だった。学生運動で有名進学高校を卒業目前に退学。自分にあった仕事が見つからず、家具屋の店員をはじめパチンコ屋の店員、ミシンのセールスマン・・・と転々と職を変えていたころ、特別養護老人ホーム(特養)の寮母の仕事が舞い込んできた。「男でもいいのなら」と、その未知の世界に足を踏み入れた途端、老いの魅力から足が抜けなくなってしまったという。最初は男女の区別もつかなかった老人たちが、煮詰まりきった個性を存分に発揮する味わい深い世界だったのである。

最初に働き始めたのは、キリスト教団が運営する広島の特養でした。一般的に老人ホームに入ってるのはかわいそうな老人たちと思われていて、私もそう思い込んでいたのですが、とんでもない思い違いでした。寮母を召し使いと思い込んでいる84歳の元お嬢様をはじめ、主任指導員に見事なくずし文字のラブレターを渡すじいさんや、マヒで全身硬直しながらも1日中ベッドの上で赤旗を読む元活動家など、個性全開といった面々が実にマイペースに暮らしていた。人間、最後にこんなに個性的になるなら、若いときから個性的に生きればいいんだと思えて、ホッとできた。世間で理想とされるコースからはずれてしまった自分にとって、老人と出会えたことで開き直りができて、どの人生にもレールなんてないこと、行き着く先も過程もみんな違うことを教えられたんです。

介護現場には、老人に笑顔を取り戻させる力がある

三好春樹さん そこには教科書では通用しない世界が広がっていました。暴言は吐く、物を投げ引っかく、ツバまで吐き散らすといった愚行から、いくつもの病院や施設を転々としてきた半身マヒで10年寝たきりの問題老人が、研修通りの接し方しかしない職員には心を開かないのに、ありのままの彼を受け入れて必死でケンカをする指導員には笑顔を見せるようになっていった。また、老人病院で点滴のために手を縛られ、オムツをつけ、表情をなくしてやって来た女性が、ベッドの脚を切って低くしただけで、立ってトイレに行けるようにもなった。逆に、特養では自立できていたおばあさんが、疾患があるため病院に1週間検査入院したところ、車椅子に乗せられ、尿意も分からなくなってオムツをつけて帰ってきた。「おいおい何をやってんだよ。そっちは専門家がいっぱいいるはず。こっちは素人ばかりなのに、なんで老人が元気になれるんだ」といった感じでした。
ベッドを低くして足が床につけば、立てるようになる。歩いてトイレに行ければ尿意が回復し、目の輝きも戻ってくる。介護現場には専門書には書いてないことばかり。介護は自分たちの日常体験の中にあるんだと分かった。こちらは素人なんだけど、人間を人体として部分的に見るのではなく、人間丸ごととして捉えることの力の大きさとでもいうのでしょうか。病院で命だけを救ってもらっても、それではただの生きものにすぎない。介護現場では命は救えないけれど、ただ息をしているだけの人や生きるのをやめようと思ってる人に、もう一度笑顔を取り戻せることができるのではないかというシロウト集団の開き直りが始まりました。

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