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高齢者

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2009/03/02
「人生、終わりあかんでもまあええか」おおらかな看取りを地域でふわっと支援したい。


在宅死は「特殊」じゃない

桜井さんは、在宅ホスピスケアを野球にたとえて「先発完投型」でありたいと話す。日常の医療の延長線上に死というものがあるのに、在宅死はまだまだ特殊なものと考えられているからだ。
「人生をフライトにたとえるなら、終末期は目的である空港への着陸です。元気な時にもっと治療して長生きしようというのと、そろそろあかんのやったらお家で最期を迎えましょうというのは連続したもので、どこからかがホスピスケアじゃない。でも、現実にはそれがなかなか上手くいかない。最近多いのは、末期がんでもう打つ手がないと言われた状況で、病院からの紹介か、本人や家族がネットでアクセスして来られるケース。中継ぎだけとか、最後9回の裏ツーアウトからの登板というケースも増えています」
現在、健康であるなら、多くの人が自分の死に真剣に向かい合うことなく、「寝込まずに長生きできれば」という程度に考えているのではないだろうか。しかし、体の衰えや病は何の予告もなくやってくる。いい医者探しばかりをする前に、私たち自身が「どんな医療と死に方を求めるのか」をしっかり考えておくことの方が大切なようだ。
日頃から患者とも本音でやりとりをする桜井さんは、「在宅死の場合、患者さんと医者とは信頼関係が必要とか言われがちだが、そんなカッコいいもんやない」と笑い飛ばす。
「何かあったら行きます、という普通の契約にすぎません。僕だって夜は寝るし、酒も飲む。休日にはゴルフへ、連休には海外旅行にも行く。もちろん必ず連絡は取れるようにして、僕が無理な場合は必ずバックアップのナースや代理のドクターの確保はしておきますが‥‥」
このところ世の中の流れが、本『悼む人』、映画『おくりびと』など、死や往生際について見つめ直そうといった風潮にあることが、在宅死についても追い風になってくれるのでは、という桜井さん。「終わりよければすべてよしだが、現実はそう上手くはいきません。在宅死に理想や正解を求めないこと」とした上でこう結んだ。
「病院よりも家を選び、のんびり死んでいく人を、家族や近所のおばさん、ヘルパー、看護師、町医者らがちょっとあわてたり、悲しんだり、あきらめたりしながら看取る。そんな死の日常化に向けてすすんでいければと思っています」

2009.2.12 さくらいクリニックにてインタビュー
text:上村悦子

桜井隆(さくらい たかし)
1956年兵庫県尼崎市生まれ。1981年群馬大学医学部卒業後、兵庫医科大学2内科、大阪大学細胞工学センター、大阪大学集中治療部、大阪大学整形外科、星ヶ丘厚生年金病院勤務を経て、1992年さくらいクリニック開院。医学博士で内科専門医、整形外科専門医、リウマチ認定医、リハビリテーション臨床認定医、東洋医学認定医、介護支援専門員でもある。宝塚歌劇団主治医、「阪神ホームホスピスを考える会」代表、「おかえりなさいプロジェクト」代表。 
さくらいクリニック
尼崎市武庫元町2丁目12-2 tel/06・6431・5555
http//www.reference.co.jp/sakurai/
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