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2009/03/02
「人生、終わりあかんでもまあええか」おおらかな看取りを地域でふわっと支援したい。


在宅死についてのノウハウをまとめた冊子「あなたの家にかえろう」が発行されて2年半。各病院や介護ステーションなどの窓口を経て、すでに20万部が配布された。中心となって制作に関わったのは、長年に渡って訪問診療に取り組む桜井隆医師(52歳)だ。8割以上が病院死という時代だからこそ考えたい「人間らしさを失うことなく最期を迎えるための方法」が綴られている。「仕事が終われば家に帰るように、人生という仕事が終わる時は家に帰ろう」というメッセージを添えて。

「人生、終わりあかんでもまあええか」おおらかな看取りを地域でふわっと支援したい。さくらいクリニック 桜井隆さん

今でこそ病院で死ぬことが当たり前だが、こうなったのはわずか30年前のこと。1978年までは家で死ぬ割合の方が多く、51年には約9割が在宅死だった。それが医療技術の進歩とともに逆転。桜井さんは「人々は、がんや生活習慣病でさえ治せる、永遠の健康さえ夢ではないといった幻想を抱き、健康への過剰な期待が、死んでいくことを敗北として日常から隔離。死が医療に管理され、病室という密室に封じ込められていった」と語る。

「在宅死」は自分自身で選べる人生のしめくくり方

「僕が在宅医療に取り組むようになったのは、最初から『在宅ターミナルケア』という特別の理念があったわけじゃありません。一人の患者さんが腎臓がんであちこちに転移して、通院していたのが段々来れなくなり、往診に行ったのが始まりです。もう入院したくないという人を家庭医として診ていたら、枯れるように亡くなっていかれた、そんなあっさりした感じです」と桜井さん。17年前、内科医・整形外科医として兵庫県尼崎市にクリニックを開業して以来、毎年25~30人を在宅で看取ってきた。
状態が悪くなり、意識レベルが低下し、血圧も60に。点滴も、カテーテルも、心電図のモニターも酸素もなく、いつもように自宅の布団で寝たまま、自然に息を引き取るという死である。 「一人、また一人、家で亡くなる方を看送る中で、いろいろなことを教わり、家で死ぬことがごく普通で、往生際の本来のあり方だと思えてきた。住み慣れた家で、使い慣れた生活具やペットに囲まれての死。そこに必要なのは、仕切ったり、押しつけたり、無理な指導をしない、死を目前にした人をふわっと支える医療者なんです」 。

家族以外の人にサポートされたっていい

冊子「あなたの家にかえろう(無料)」作りのきっけとなったのは、米国で在宅ホスピスの調査をした静岡がんセンターのケースワーカー・服部洋一さんの「日本には在宅看取りの情報がないね」という言葉だった。それなら自分たちの手でと、桜井さんらはまず在宅医療にかかわる医師や看護師、患者支援団体のスタッフで「おかえりなさいプロジェクト」を結成。今では各自で決められなくなった「自分の最期の迎え方」の道しるべとなればと、優しく的確な文章と爽やかなイラストとで構成されている。
冊子から語りかけてくるのは、「あなたの最期の場所は自分自身で決めればいい」「そこでの主役はあなたとあなたの大事な人たちです」といった温かい言葉。家族愛を中心に語られがちな在宅ケアを肯定するのではなく、家族に限らず、もっとも身近な人や、近所の人、あるいは友人、さらに在宅医や訪問看護師、ホームヘルパーなどさまざまな人に支えられての在宅ケアを強調している。
「今は、夫婦に子どもが何人という家族の概念が変わってきている。ゲイやレズビアンなどいろんなカップルがいる。サポートするのは血縁に限らず、友だちでも、サービス提供業者でもいいじゃないかという提案です」
基本は「家で死んでいいんだよ」「死ぬのに医者いらないよ」の2点だけと話す桜井さん。「死亡前24時間以内に医師が診察していなければ死亡診断書が書いてもらえない、警察の検視になる、という間違った認識から、今も多くの人が家で死んだらあかんと思ってる。在宅医が継続してかかわっていれば大丈夫なんです」
冊子では、「在宅ケアへの不安について」や、家族がうろたえないように「旅立ちまでの体の変化」についても解説。特に在宅ケアの場合、「死に至る過程での痛みや苦しみ」に不安を持つ人は多く、その点を緩和ケアの技術が進んだ今、適切な飲み薬や貼り薬によって痛みや苦しみをとり、安心して暮らすことができると説明。そして、最終ページには「食べ物をとる量が少なくなり‥‥、眠っている時間が長くなり‥‥、時には場所や人をまちがえたり‥‥、せん妄という錯乱状態が起きたりもしますが、こうした変化は自然のこと‥‥」と旅立ちまでの変化を記している。
統計的には、在宅死は2005~08年にかけて増加に転じているものの、トータルで死亡数が増加しているため12.3%。県別では、在宅ケアに必要な医師や看護師、ヘルパーなどのサービスが充実している東京、神奈川、大阪、兵庫などの都市部がここ1~2年上位となっている。その一方で、サービスの不足しがちな地方での看取りは難しく、地域格差が出ているのが現実だ。

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