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アルツハイマーは人生の最後に母が神さまからもらったプレゼント 映画監督 関口祐加さん

2015/07/24


私は認知症になり明るくなった母が好き

 現在、関口監督は『毎日がアルツハイマー最終劇場公開版』を製作中だ。課題は、認知症の人の最期がどうあるべきか、母・ひろこさんにとって安心できる場所はどこなのか。ケアのあり方や家族のあり方など、人が死ぬこと・人生を終えるとはどうなのかを含めて描きたいと語る。

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 2009年に母を被写体にカメラを回し始めたけれど、映画の製作資金についてまったく分からない状況でした。とりあえずYouTubeに母の動画をアップし始めました。そうしたら10万ビューを超えたぐらいから、いろいろなメディアに注目されるようになったんです。今は100万ビュー近くになっていますね。

 最初は批判にさらされました。「年老いた母をみっともない」とか、「認知症の母をさらけ出して」と。でも、批判はありがたいんです。世間が老いや認知症をどう捉えているかが一発で分かったので。ああ、認知症になったら大変だと思ってる、年を取りたくないアンチエイジング社会なんだと。その時、私は年老いて認知症になった母のことを、ちっとも恥ずかしいとは思わず、むしろ明るくあけすけになって良かったなと思ったんですよ。

 映画の神様が降りるって言いますが、映画に真剣に向き合うと必ず扉が開くんです。YouTubeのお陰で認知症フォーラムに招待され、そこで新井教授と出会い、『毎アル2』で撮影したイギリスの「認知症ケア・アカデミー」ともつながり、「パーソン・センタード・ケア」の本場で勉強ができました。

 私が認知症ケアにおいて唯一無二と考えるパーソン・センタード・ケアは、認知症の人を一人の人として尊重し、その人の性格や趣味、家族、それまでの個人史などをきちんと理解して、その人に合ったケアを導き出し行うこと。認知症という病気だけが同じで後は十人十色なので、カスタマイズされたケアが必要なんですね。そして、病気だけでなく、その十人十色を理解できる医者には、人間力が必要ではないでしょうか。
 だからこそ、認知症ケアは高度なスキルだといわれている。ということは、国が推進するように最期まで住み慣れた地域や家で介護を家族に求めるというのは無理だということ。もっと一人ひとりに合ったケアができるプロの育成こそ大事だと考えています。

 母の在宅介護を始めて6年目になります。母は昨年初夏から今年の1月にかけて脳の虚血症発作で4回倒れたんです。そのせいか、反応が少しスローになってきています。一般的に認知症は長い旅路をたどるといわれますよね。旅路には旅支度が必要ということで、予測不可能ながら2つ3つ先をどう準備すればいいのか......。

 今考えているのが、認知症の人の看取りについてです。実際に、母が「家にいる不安」を口にしたこともあって、母にとって住み慣れているはずの家が本当にいいのかどうか悩んでいるところです。
 ただ、つくづく思うのは、母は認知症の力を借りてやっと自分をさらけ出せて、楽になったということ。そうじゃなかったら母は絶対に老化現象を受け入れられないタイプですからね。そういう意味でも、母にとって認知症は神様からの素敵なプレゼントだと思います。

(取材・2015年5月 構成・上村悦子)

関口祐加(せきぐちゆか)
1957年横浜市生まれ。大学卒業後、オーストラリアへ。89年ドキュメンタリー映画『戦場の女たち』で監督デビュー。92年『ミセス・ヘガティ』(日本未公開)を見たアン・リー監督からコメディのセンスを絶賛され、以後コメディ・ドキュメンタリーを目指す。2009年『THEダイエット!』、10年母の認知症発症を機に29年ぶりに帰国。作品は国内外で受賞多数。著書に『毎日がアルツハイマー』『毎アルツイート・マミー』など。

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