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部落

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2001/02/04
部落の食文化 後編 放るもんからおいしいもんへ


「あらかわ」の店頭 次に、大西さんがあぶらかすを仕入れているホルモン専門店「荒川」を訪ねた。店頭には、ツヤツヤしたホルモン類が並んでいる。創業して50年以上という老舗だ。南港の食肉市場から仕入れるホルモンは、すべて生である。
「確かに最近はホルモンが人気やけど、うちは生しか扱えへんからねえ。売れても仕入れられる量が限られてるんよ」
手際よくホルモンをさばきながら、三代目にあたる耕次さんが説明してくれる。仕入れたホルモンは食肉工場で毛や筋などを取り、きれいに「掃除」したうえで店に持って帰る。あぶらかすは小腸を食肉工場で仕入れてもらい、専門の業者がヘッドで揚げたものを買い取る。「荒川」では小腸のみをあぶらかすに加工しているが、業者によって使う部位は違う。値段も店によってまちまちだが、やはり年々上がっている。「デパートに行くと、うちの倍くらいするで」と耕次さん。さらにホルモンの説明は続く。
「ホルモンは内臓と顔の部分。ハラミやレバーは内臓で、顔はアゴとかツラミ(文字通り『面の身』)やね。焼いて固くなるとこはスジにしてお好み焼きやどて焼きなんかに使って、焼いても食べられるとこはホルモン焼きにする」
この店でも「すじのこごり」は人気である。
「コリコリ(心臓の血管)とか足スジなんかを炊いてるうちに、ゼラチン質が出てくる。しょうゆとみりん、風味調味料で味付けして、冷ましてから冷蔵庫で固める。全部で5時間くらいかかるけど、ほとんど毎日、炊いてるね」
市内に4店舗をもつお好み焼き屋さんに卸す以外は、地元の買い物センター内での販売のみ。創業当時と変わらず、ムラの人たちの食生活を支えている。

あぶらかす「貧乏人の知恵」と大西さんは言ったが、その言葉には愛着と誇りが感じられた。「荒川」のピカピカに磨かれたショーケースや丁寧に「掃除」されたホルモンにも、同じものを感じた。かつて「放るもん」だったものが、ムラの人たちの工夫によって「おいしいもん」となり、今では多くの人に親しまれるようになった。その結果が品薄や値上げとなるのは残念だが、食生活の格差がなくなった今、ムラの味がより広く知られるメリットの方が大きいのではないだろうか。
大西さんはこうも言う。
「昔と比べたら、ムラの外へ出て行く子が増えてきた。『部落って何?』っていう子もいてるし。せやけど、いざ結婚となったら親が賛成するかどうか。普段は何も言わんでも、自分の身内のこととなったら反対する人はまだまだいてる。だから若い子らがムラ以外の人らと活発に交流してるのを見ると嬉しいよ。ムラの中だけでああやこうや言うてるより、けんかしてでも外の子といろいろ話したらええねん」

違う文化をもつ人間がわかりあうための第一歩は、出会いである。そこで生まれるのが共感にしろ反発にしろ、出会いがなければ何も始まらない。ムラの「名物」もその味で多くの人を惹きつけつつある。この出会いがムラの中と外を隔ててきた壁を壊すひとつの力になるかもしれない。
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