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部落

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2001/02/04
部落の食文化 後編 放るもんからおいしいもんへ


 
放るもんからおいしもんへ
数年前、モツ鍋が爆発的な人気を呼んだ。ブーム自体はやがて下火になったが、モツ(ホルモン)が若い世代に認知される大きなきっかけとなった。今やお好み焼き屋では「すじ入り」が人気メニューの定番だし、ちょっと凝った居酒屋にもホルモン料理がメニューに並んでいたりする。低カロリーでヘルシーな食材として女性誌の料理特集に登場することもある。「放るもん」が語源とも言われ、部落(ムラ)となじみ深いホルモンが一般食材としてすっかり定着した今、逆に部落のなかではどんな存在なのだろうか。何十年という長い間、ホルモンを扱ってきた人たちの話を聞いた。

大ナベ一杯のスジ

大鍋いっぱいのスジは5時間以上、炊いては水洗いする
下ごしらえができたスジ

下ごしらえができたスジ
あぶらかす

水菜と炊くあぶらかすは、少し脂を取り除いて使う
JR・大阪環状線芦原橋駅の高架下にある「料理処 岳(たけ)」。近くの部落解放同盟大阪府連のスタッフもお墨つきの味である。出し巻やキムチ焼きそばなど、他の居酒屋でもおなじみの一品料理が揃っているが、おすすめは何といっても「さいぼし」「すじのこごり」「鱧皮のこごり」や「水菜のあぶらかす煮」など、ムラ独特の料理である。
オーナーの大西紀代美さん(59歳)が店を始めて25年。彼女自身も地元で生まれ育った。
「私が店を始めた頃は、普通のうどん屋さんやラーメン屋さんしかなかった。せやけど、こごりやさいぼしがこの辺の名物やんか。どうせやったら名物を食べてもらえる店にしたいなあと思って」
さいぼしやこごりは、子どもの頃から食べてきた。とはいってもさいぼしは高級品だし、こごりは手間がかかる。冷蔵庫がなかったこともあり、盆と正月しか食べられない「ごちそう」だった。
「あぶらかすは安いから肉のかわり。保存食でもあるしね。こごりにしろ、あぶらかすにしろ、貧乏人の知恵。『放るもん』のホルモンをどうにかしておいしく食べようという知恵やね」
特に料理を学んだわけではないが、子どもの頃から見てきた親の料理を思い返しながら自分なりの味をつくりあげた。なかでも「すじのこごり」は2日がかりでつくる逸品。さいぼしは色々試した結果、松原の食肉工場から取り寄せている。この店で出される「ムラの名物」はどれも手のこんだ上品な味わいで、家庭の味というよりはまさに「料理処」の味である。次第にムラの外からやって来る客も増え、店の名物としてすっかり定着した。
「ここで生まれ育って、今はよそに住んではる人も食べに来てくれはるよ。私はその人を見たら『あ、あそこのおばちゃんや』ってわかるねん。そのおばちゃんは、こごりを食べたいねんな。せやけど『こごり、ちょうだい』とはよう言いはれへん。『あの、お肉を固まらせたやつ、あるでしょう? あれ食べたらおいしかってねえ』って言いはるねん。私にしたら『おばちゃん、部落民やん。こごりって知ってるのに、ここまで来てそんな言い方せんでもええやん』って思うねんけど、そういう人もいてはるわ」
幼い頃から親しんできた味は、よそで口にすると白い目で見られる味だった。食べたい気持ちを抑え続けるうちに、地元に帰ってきた時ですら素直に口に出せないようになってしまったのだろうか。
「私自身は部落民やからといって嫌な思いをしたことは1回もないねん。若い頃、ムラの外に住んだこともあるけど『実家はどこ?』って聞かれたら、素直に『栄町』(当時の地名で現在は使用されていない)って答えてた。せやけど、タクシーで家に帰るにも一駅ぐらい手前で降りて、わざわざ歩いて帰る人たちもいてるよ。私は家の前まで乗って帰るけどね。言う必要もないけど、隠す必要もないと私は思ってる」
父親が水平社の解放運動に参加していたという大西さん。嫌な思いをした経験がないこともあってか、部落民であることをごく自然に受け止めて生きてきた。しかしやはりここ数年、あぶらかすやさいぼしの知名度が上がってきたのは嬉しい。
「この間もふたつのテレビ番組で『かすうどん』なんかが紹介されてた。知ってる人が増えてくるのは嬉しいわ。せやけど人気が出てきたせいか、仕入れ値も上がってきてなあ。せやからいうて値段はそうそう上げられへんから、ちょっとしんどいねえ」
人気が上がれば値段も上がる。しかし上がった分、大西さんにとってはしわ寄せになるというところが皮肉である。
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