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部落

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2001/12/19
シリーズ結婚差別1 なぜ私を拒むのですか




寄り添う二人の足下


部落なんて・・・彼の人間性をみてほしい

「その人と真剣におつきあいをしていくつもり?」
「会っているとおもしろくて、何時間でも話していたい人。結婚したら楽しいだろうなぁって思います。でも・・・」
「そういう地域の人だということが気になるの?」
「私は平気です。ただ、きのう母に“部落の人って、どう思う?”って聞いたら“お願いだから、ややこしい人とはおつきあいしないでね”と言われてしまって・・・・どうしたものかなぁ、と」
年齢が離れすぎている、というだけで娘の結婚を潰した母である。しかも母の妨害でひどい失恋の痛手を受けたにもかかわらず、弥生は母との関係を何ら整理できていない。
エミはきっぱりと言った。
「やめた方がいい。あなたにはこの恋愛は無理だわ」
相手が部落の人間であろうと、なかろうと弥生が母親から精神的に自立しない限り、どんな恋愛も母に操作されるだろう。母の好む相手でなければ結婚は難しい。
「深入りしたら、あなたより相手の男性がもっと傷つくことになるわよ」
「部落なんて・・・・。彼の人間性をみてほしい。」
「でも、お母さんを説得できる?」
「エミさんなら応援してくれると思っていたのに。部落なんて関係ない、って笑うと思っていました。やっぱりそういう立場の人を避けるんですね。母と同じだわ」
残念そうにつぶやいて、目を伏せてしまった。
彼女の言葉にいたたまれなくなったエミは意を決したように告げる。
「・・・・・私も部落に住んでる」
弥生が驚いて顔をあげた。
「部落の人と恋愛するって、けっこう厳しいよ。弥生ちゃんのお母さんみたいにイヤな顔をするひともいっぱいいる。ましてや結婚となると・・・・・。悪いことは言わない、あきらめた方がいい。」

1年後、弥生が電話で結婚を報告してきた。
「私、結婚します。母にも祝福されて、とても幸せです」その声はとても華やいでいた。相手は3歳年上の“ごくふつうの”会社員だと言った。

二重に傷つく部落出身者

エミはなぜ自らも部落民でありながら「がんばれ、差別と闘うべきだ」と言わなかったのだろう。どうして弥生に男性をあきらめるように仕向けたのだろうか。
「彼女は母親から自立できていなかったし、新しい恋は前の失恋の穴埋めに過ぎないことがわかっていたもの。部落の子とつきあうには、まだまだ覚悟が必要なのよ。あの子には親を説得する恋愛はできないと思ったから」
エミの言葉は少々大げさな気がするが・・・・。
「たかだか失恋だもの。弥生が挫折するのは別にかまわなかった。あのときはむしろ相手の男の子のことを考えたのよ」
会ったことはないが、同じ部落民である男性のことを心配した、という。
「2人が真剣に考えて、人権というものを胸に刻んで差別を乗り越えていこう、というのなら応援できたと思う。でもあの後、2人のつきあいが続いていたら母親は間違いなく彼女の人生に介入してきたでしょうね。弥生も最後は親の言いなりになってしまうところがある子だし。そのとき、男の子は恋人を失い、さらにその理由が部落出身者だということで二重に傷つけられるのよ。“がんばれ、差別を乗り越えろ”なんて無責任なことは言えない」
不幸になる前に・・・・という考え方はわからないではないが、釈然としない。
たしかに2人の男女はエミのおかげで必要以上に傷つくことなく別れることができた。しかし「そこにある差別」を避けただけで、何も変わってはいない。
誰も不幸にはならなかったけれど、誰も幸福にはなれなかった。
エミの言うとおり、部落差別があきらかに人権侵害だとわかっている今日でも被差別部落の家族と姻戚関係をもつことを避けたいと考える人は少なくない。世間的な「おつきあい」はできても、人と人の絆が問われる結婚となるとまた別なのである。それが部落差別だと分かっていても、周囲に「部落と親戚だ」と言われたくない。そうした親の意識にふりまわされて、結婚を阻まれた若者たちは家族の関係を絶ち、理解と祝福を得られないまま新しい生活をはじめる。
そんな2人のケースを追ってみた。

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