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2001/12/19
シリーズ結婚差別2 もうひとふんばり結婚差別


2日後、直樹から電話がかかってきた。 
「週末にでも会いたいってさ」
「ちゃんと話してくれた?」
「もちろん」
明るく、自信に満ちた声だった。

彼の実家のことは少し聞いている。旧家の次男。兼業農家で、いまでも年中行事に親戚が集うような家だという。こうした彼のバックボーンを思うと暗澹たる気分になる。
「ほんまにダイジョーブなんかいな~」
しかし、とにかく来い、という。
(行ってやろうじゃないの。結婚を許さないというなら奪い取ってやるわ、駆け落ちもアリよね。第一、結婚は個人の問題。いいオトナなんだし、親の承諾なんてもらう必要はない!)
真弓はいろいろな考え方で自分自身を勇気づけようとした。
でも、部落の人はいつも結婚で泣かされてきた。祝福されて幸せになった人より結婚できなかった人の方が圧倒的に多い。そんな事実ばかりが真弓の上に重くのしかかってくる。
不安な一週間が過ぎて、直樹が迎えにきた。
「ほんまに、ちゃんと話してくれた?」
「しつこいなぁ、あたりまえやんか」
車の中でカラカラと笑っている。

思った通り、直樹の実家は大きな門構えの旧い家だった。真弓の家とは随分ちがう。“家柄”“しきたり”“家父長制”などというまがまがしい言葉ばかりが浮かんでくる。
(うー、足がすくむ・・・)
玄関に入って直樹が声をかけると、奥から彼の母が迎えに出てくれた。直樹と同じ目もとをした女性が、にこやかに笑っている。
「さあ、入って」
居間には、彼の父が座り、兄の妻だという人が台所で料理をしていた。心づくしの手料理とお酒がならぶ食卓。夕方には彼の兄も合流して酒盛りになる。
た・・・たのしい。楽しすぎる。
でも、ホントにこれでイイのだろうか。直樹は、大切なことを伝えていないんじゃないの?出身のことはウヤムヤにするつもり・・・?
そんなことを思いはじめた時に、母の聡子がきりだした。
「真弓さんは部落に住んでいるの?」
(きたっ)
「はい・・・」
「直樹が気にしていると言っていたから」
胸がドキドキした。
彼の母は、おだやかに言った。
そういうことに、こだわるのってどうかなぁ。結婚するのは2人やもんねぇ」
他の家族は何事もないように食事をしている。
話が本題にふれて、随分と緊張しているのが分かったのか、直樹がビールを注いでくれた。
「な、言うたやろ。うちの親は気にせぇへん、って。まぁ飲んで」
直樹の家族はいろいろなことを聞いてきた。それは、探るような、不愉快な問い方ではなかった。むしろ、これから家族になる人のことを知りたい、そんな暖かさが伝わってくる。両親のこと、兄弟のこと、住んでいる街のこと。真弓は、ありのままを素直に答えた。直樹の家族は、どんなこともこだわりをもたずに聞いているのがわかる。
そして帰りがけに
「こんど、ご両親にお会いできる日を楽しみにしているからね」と
彼の父が真弓に声をかけた。

「なんで?!どうして!!」
信じられない。これまで聞いてきたことと全然ちがう。もしかして、彼のご両親も同和地区出身・・・とか。
「ちがう、部落の人と結婚するのは僕がはじめてや」
直樹は母のことを語りはじめた。

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