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2001/12/19
シリーズ結婚差別2 もうひとふんばり結婚差別


旧家の一人娘だった母には、父親のいちばん下の弟で、兄妹のように育った叔父がいたという。
「この人が昔、部落の人と結婚しようとして破談になったんや。親戚中が猛反対して、結局あきらめさせられた」
叔父は長く後悔して、なかなか次の結婚に踏み出せなかった。少女だった直樹の母は、そうした叔父の姿に心をいため、やさしい祖父母や親戚が厳しく反対する理由を知りたいと思った。その後、母自身が結婚してPTAで同和学習に参加する機会を得たことをきっかけに、人権学習が彼女のライフワークになったという。
「結婚で破談にされた方はもちろん傷つくけど、破談にした方も後悔してる。うちのおふくろみたいに、そのことをしっかり見てる人間もいる」

直樹は、部落外の立場から破談にした人の気持ちを語った。
差別の痛手は、受けた側だけのものではない。差別に負けて結婚をあきらめた人の中にも、無理矢理に引き裂いた人々も100%いいことをした、とは思ってはいない。そして、こうした中から過去の轍を踏まないように、新しい視野をもつ人も育ってくる。
同和地区の中で、人権の動きが生まれたように、部落の外側からも歩み寄ろうとしている人たちがいる。


 

「破談にした方も、人間的な行為やない、ということを分かってやってる。差別や偏見でも我が身かわいさで逃げ出してしまうこともあるねん。誰かが“それはおかしい”と言わんと変わらへん。」
「それが、お母さん?」
「本人はそういう結婚やなかったけど、息子が生きやすいようにしてくれたと思う」
「親戚の人とか・・・まだイヤな顔する人もいるの?」
昔ながらの家であれば、親族のつながりも強い。家族が了解しても、親族に押し切られて旗色が悪くなることだってある。
「うるさい外野がいないと言えばウソになるな。近所にはいまだに家系が汚れるとか、部落の人はぜったいヤクザと親戚やとか言うてるのがいるし、結婚しても同和地区にだけは住むな、部落の嫁が来るのやったら、つきあいを断る、てなこと言うてる親戚もおる。」
真弓の背中に寒いものが走った。
言葉で嫌いだと言われるより無言の差別、冷たい視線、無視されることの方がつらい。やはり直樹の家族は、数少ない被差別部落の理解者なのか・・・
「近所や親戚の顔色なんかいちいち気にしてられへん。何より僕と君が家族のつながりをつくることが大事やし、幸せになることで後に続く人が増えると思わへんか?」
真弓は、いままで知らなかった直樹の一面を知った気がした。(コイツ、かなり見どころのある男かもしれない。)
「安心して、来たらええねん」。
真弓が本当に言ってほしかったのは、この言葉なのかもしれない。

いかがですか?この物語は、あくまでもフィクションですが「2000年部落問題調査」の数字を分析してみると、まったく現実離れしたものではないことが分かっていただけると思います。もちろん一方では被差別部落に対する偏見、思いこみによる差別があとを絶たず、被差別部落居住者であることを理由に破談になったケースは現在も少なくありません。結婚差別を乗り越える若者が増えているとはいうものの「結婚差別は自然に解消していく」ものではありません。
若い人たちが結婚の自由とともに、差別からの自由を知識として、経験として、感覚として、自分のものにできる質の高い人権教育、そして周辺環境が求められています。
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