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2000/01/22
映画「アイ・ラヴ・ユー」のご紹介1


日本で初めて、ろう者と聴者の共同制作による映画が完成しました。ろう者と聴者との間にある葛藤や絆、ろう者の日常生活など、これまでにないリアリティーあふれる映画となりました。映画の紹介と共に、主演の忍足亜希子(おしだりあきこ)さんと手話コーディネーターの妹尾映美子(せおえみこ)さんに、撮影中のエピソードなどを2回にわたって語っていただきます。




水越朝子は、消防士の夫・隆一と小学1年生の娘・愛と共に静岡市の郊外に住んでいる。隆一や愛との会話は、すべて手話。特に愛は、耳の聞こえない母を何かと手助けしようとする、おませでしっかりした子どもに育っていた。平凡ながら幸せな日々を送っていた朝子たちに、ある日思いがけないことが起きた。愛と手話で話す朝子を見たクラスメートが、「お前のかあちゃん、変な奴!」と、愛をからかい始めたのだ。
「自分がろう者であることが原因で、娘がいじめられている・・・」。ショックを受ける朝子。愛の担任の先生は「耳の聞こえない人に思いやりをもちましょう」と子どもたちに言ってはくれるのだが、それは朝子の思いとは違っていた。朝子が愛に伝えたいものは、「思いやり」や「かわいそう」という感情ではなかった。耳が聞こえなくても母と娘の気持ちが通じ合う幸せや、手話で話す楽しさこそを愛に感じてほしかったのだ。
朝子は、そんな自分の思いを身を持って伝えようと、かねてから誘われていたろう者劇団に入る。「手話の表現力を生かせば、自分たちにしかできない面白い芝居ができるはず」という強い決意を胸に。そんな朝子の行く手には、悲喜こもごものアクシデントが待ちかまえているのだった・・・。




撮影秘話
シリーズ第1回
撮影現場で繰り広げられた、『もうひとつのアイ・ラヴ・ユー』

日本で初めて耳の聞こえない人(ろう者)の俳優を主役に起用するということで、撮影前から話題を呼んだ『アイ・ラヴ・ユー』。それだけに、監督をはじめとするスタッフたちの意気込みは大きかった。主演俳優だけでなく、監督もろう者の米内山明宏(よないやまあきひろ)氏と聴者の大澤豊氏のふたりが担当。脇を固める俳優も、ろう者の役はろう者が演じ、制作スタッフも聴・ろう混成の編成チーム。日本はもとより、世界でも例のない映画制作となった。

これまでもろう者が主人公の映画やドラマはあったが、ろう者からは「聴者の視点からつくられており、リアリティーがない」などという不満の声があった。「ろう者にも聴者にも面白くて楽しい映画をつくりたい。そのためには、お互いが対等な立場で意見を出し合い、協力し合うことが必要。大げんかは覚悟のうえ」と、両監督は撮影前に話していたが、実際に撮影が始まると想像以上にさまざまな課題が表面化し、活発な意見が交されたのだった。

手話コーディネーターの妹尾映美子さんはいう。
「最初にあがってきた台本を読むと、何か違和感があるんです。『ろう者はかわいそう、大変』というところから始まってるんですよね。だからまず聴者のスタッフの意識を問い直すところから、映画の制作は始まりました」。
たとえば、朝子が友人の勝子の会社を訪ねるシーン。普通ならまずは受付でメモを渡して取り次いでもらうところを、朝子は平気で仕事中の職場に乗り込んでいくように描かれている。それではまるで、ろう者が非常識で、なおかつそれが「耳がきこえないのだから仕方ない」と受け取られかねない。そもそも聴者の側に、そういう意識があるのではないか。「そんなやりとりが撮影現場で始まるのだから、もう大変。お金も時間も無駄にしながら、ろう者と聴者のスタッフが、時には苛立ちながらも徹底的に話し合いました。最終的には忍足さんをはじめ、ろう者のスタッフも納得できる、リアリティーのあるろう者の生活を描けたと思います」。

撮影が進むにつれて、ろう者のスタッフたちは、聴者のスタッフそれぞれが手話の本を持っているのに気付いた。誰が言い出したわけでもなく、ひとりひとりが積極的にろう者のスタッフとコミュニケーションをとりたいと思ってのことだった。それはろう者のスタッフたちにとって、何よりの喜びであったという。
「録音スタッフは、マイクに余計な音が入らないようにとすごく神経を使ってるから、しみじみ『手話はいいなあ、音を立てずに合図や連絡ができるから』って言ってました(笑)。ろう者も、聴者が音を立てないために細心の注意を払っているのを知って、撮影中は静かにしなくてはいけないことを理解しました。お互いに違う文化を知って、世界はぐっと広がったと思いますよ」と妹尾さん。

「ろう者と聴者が理解しあうには、両者の交流を盛んにし、お互いの心がふれあう関係になること。ろう者の真実の姿を知らないことから生じるバリアが、より深く知ることによってフリーになる。それを映画『アイ・ラヴ・ユー』を通じて伝えたい」というのが制作スタッフたちの思いだったが、撮影現場でも映画さながらにお互いが本音をぶつけ合い、理解を深めていった。『もうひとつのアイ・ラヴ・ユー』ともいえるこの経験は、それぞれの心に大きな実りをもたらしたに違いない。


ろう者 (耳が聞こえない人)
一般に「聴覚障害者」と呼ばれることが多いが、ろう者たちの間には「耳が聞こえないのは『障害』ではない。ろう者は手話という言語を母語とするマイノリティーである」という考え方がある。同じく一般的に使われる「健聴者」という言葉にも、「聞こえることが健全だ」というニュアンスがあるため、聴者(=耳が聞こえる人)という言葉を用いた。

主演女優 忍足亜希子(おしだりあきこ)
オーディションで、約30人のなかから選ばれた。演技は、未経験。不安はあったが、両親や友人に励まされながら大役を務めあげた。撮影中に悔しかったのは、「泣くシーンで、なかなか泣けなかった時」。悲しかったことを思い出せば泣けるよと監督にアドバイスされたが、気持ちをつくる難しさに途方に暮れた。逆に楽しかったのは、映画のなかで劇中劇『美女と野獣』を演じたこと。「映画と舞台の芝居の違いを経験できたのが、よかったですね」と手話で語る。母親役で始まった女優業だが、「今度はコメディタッチの恋愛ものをやりたい」と、やや照れながら言う。憧れの女優はメグ・ライアン。
幼い頃、「お母さんの耳をひとつちょうだい」と泣きながらねだった少女は、「ろう者であることを誇りに思ってる。これからはテレビドラマにも出たいし、ファッションモデルもやってみたい」と目を輝かせる女性に成長した。29歳。





製作:こぶしプロダクション
監督:大澤 豊、米内山 明宏
主演:忍足 亜希子
撮影協力:静岡県豊田町

シリーズ第2回はこちら
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