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障害者

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2002/04/12
性も含めて「その人らしく」生きられる社会へ


河原さんの写真

行き着く先が見えない難しさと、心の襞が見える奥深さ

・ ・・そういう状況のなかで障害者が自身の性について話す、そしてそれを文章にして発表するというのはなかなか難しいですね。

そうなんです。たとえばこれがバリアフリーの本だったらとってもわかりやすいんです。スロープやエレベーターをどこにどうつけるかという話で行き着くところが見えるんだけど、セクシュアリティは行き着く先が見えないから複雑ですよね。障害の有無とは別に、人それぞれの指向や思いがあるし、ある部分を強調するとプライバシーを暴き立てるような危うさも出てくるでしょう?
僕たちはもちろんそれが目的ではありません。一人ひとりが大切にされてほしいし、何より自分自身を大切に思ってほしいというのが基本ですから、取材をして原稿を書くにあたってはいつも葛藤があります。ただ、リスクを考え出すと一字も書けなくなってしまいます。だからトラブルが起きるのを承知で、というよりも敢えてトラブルを起こして、それを乗り越えるというプロセスを経ることでしか解決の方法はないんじゃないかと考えています。

・・・実際にさまざまな反響や批判のなかで感じられたことは?

つらいこともありましたが、恋愛や性というものを切り口にしたがために、人間の業というか生き方というのがよく見えるようになりましたね。たとえば「あなたは幸せですか?」とか「経済的に困っていませんか?」というような問いだったら決して見えなかったであろう心の襞が、性をキーワードにしたがために見えてくるんです。取材を受けてくれた人も、「性がテーマだからこそ、ここまで話す気になった」というところはありますね。

・ ・・3冊の本を出されたなかで、最も印象深かったことは何ですか?

河原さんの写真 ある女性の言葉ですね。「私に会いに来てくれて、こんな立派なホテルをとって話を聞いてくれるのは嬉しいけど、私の正直な気持ちを言わせてもらえば、あなたたちは旅人ね。いつまでも私と関わってくれるわけでもないし、私の問題を解決してくれるわけでもないし」と言われたんです。彼女の言う通りなので、すごい無力感と脱力感に襲われて一週間ぐらい寝込んでしまいました。
こんな打ち明け話をされたこともあります。ある施設で暮らしている女性が、自分と変わらない年齢の職員に、耳元でそっと「どう? 子宮を取らない? とてもスッキリするわよ」とささやかれたんですって。その声が悪魔の声に思えて、毎晩うなされるというんです。彼女がどれほど傷ついたかなんて、僕にはとても想像できない。「うん、うん」ってうなずきながら聞くのが精一杯です。「河原さんも子宮をとった方がスッキリすると思われますか?」と聞かれても、何も答えられませんでした。そういう意味では、自分をずいぶん問われる仕事です。

・ ・・今後の予定は?

この本はとにかく取材にパワーが必要なんですけど、年齢のせいかだんだんパワーがなくなってきましたから(笑)、しばらく充電します。
幸いなことに今まで変わり者といえば僕だけだったのが、最近はあちこちでタケノコのように変わり者が出てきましたから、これからは今まで以上に"性のバリアフリー"も進むのではないでしょうか。また、そうあってほしいと思います。

河原さんの著書

『ここまできた障害者の恋愛と性』(写真)

『障害者が恋愛と性を語りはじめた』

『知的障害者の恋愛と性に光を』

かもがわ出版発行 各2,200円

 

河原正実(かわはら・まさみ)
'48年、福井県生まれ。4歳の時、小児リウマチにかかり、以後車椅子の生活。'80年、全国で初の「車椅子司書」となる。同年、「第4回子どもの文化賞」(財団法人子どもの文化研究所)受賞。'85年、「ベトちゃんとドクちゃんの発達を願う会」事務局長に就任。'88年、ベトナム政府から「ホーチミン市名誉公民賞」を授与される。'92年、デンマーク、スウェーデンを訪問し、ノーマライゼーションと出会う。'93年、「障害者の生と性の研究会」を発足させる。著書:『車いす司書ハート貸し出します』(かもがわ出版)、共著:『障害児教育をどうすすめるか』(青木書店)、『障害児教育実践大系』(旬報社)、『がんばれベトちゃん・ドックちゃん』(かもがわ出版)など。

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