「解決の道は、まず子どもと向き合うこと。一緒にいればいいんです。共に喜び、哀しめば、言葉なんていらない」と、水谷さん。 私たちは「今の子どもは分からない」とよく言う。現実に大人と子どもの間は断絶しているが、でも、断絶させているのは誰なのだろう。答えは「私たち大人」なのである。 「子どものそばに行って聴けばちゃんと答えてくれますよ。僕は夜の若者の世界をいちばん知っている。なぜなら、その世界で若者と生きているからです。それが“ビールを飲みながら”や“テレビを観ながら”で、分かるわけがない。分からなければ聴けばいい。聴いて答えてもらえる大人になればいいんです」 誰もが持っている思いやりや優しさを素直に出せばいいのだという。美しい心の動きは、相手の心にも美しいものを見い出させる。 「子どもたちには頭と言葉だけでは通用しません。難しいといわれる思春期でも、親がガミガミ口で言うだけじゃなく心で接すれば、相手の心に何かの響きや余韻が残る。子どもって、与えられた愛が多ければ多いほど非行から遠ざかるし、心の傷も浅いんです」
愛し、守ってやれば子どもは変わる
水谷さんの右手の親指は、今、まったく機能しない。 6年前、暴力団に入った中国人の教え子から組を辞めたいという相談を受け、その子を引き取るための「落とし前」として、金づちでつぶされてしまったのだ。 水谷さんは笑っていう。「この指1本で一人の子どもの命が助かるなら安いもんだ。僕は自分が関わった子どもたちの親なんですから。『子どもが好き』なだけなんですよ。今は、“子どもが好きじゃない教員”や“子どもが好きじゃない親”が多すぎる。好きになって、ウソをつかなきゃいいだけ。それだけで通じあえます」
「僕が抱えている子どもたちは、みんないい目をしています。これまで世の中をにらんで斜にしか見なかった連中が、長い子で3~4年、速い子で1週間くらいでいい目になる」 21年になる教員生活で、子どもを叱ったことも怒鳴ったことも一度もないという水谷さん。子どもたちの話をする時の表情は特にやさしい。 子どもたちは、たとえ親でなくても、本当に好きになり、愛して守ってくれる人間がいれば変わっていけるのだ。「それを目の当たりにできることが、教育者としてのいちばんの快感。21年間の教員生活で子どもたちから教わり続けて、今の僕があるんです」
(2003年7月12日インタビュー)
水谷修さん前編を読む
水谷氏は薬物相談で、一人も多くの子や親たちの役に立てばとメールアドレスを公開している。 E-MAIL om@yhb.att.ne.jp URL http://www.koubunken.co.jp/mizutani/main.html
本の紹介
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さらば、哀しみのドラッグ
水谷修 著
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