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2005/08/12
自分の弱さと向き合うことから始めよう。揺れる10代とその親に伝えたいこと。


思春期の少年たちがぶつかる「性衝動」という壁

――著書『親父の出番』のなかで、「思春期とは、深い谷を挟んだ子どもの岸とおとなの岸の間に架けられている、揺れる吊り橋を渡るようなもの」と表現されていますね。

ええ。小学校高学年から始まる思春期は、人間の一生のなかで最も大変な時期なんです。親の庇護のもと、親の人格に含まれている「子ども」からなんとか抜け出そうともがくんですね。放っておいても一人で渡っていく子もいますが、吊り橋を落ちてしまう、つまり事件を起こしてしまう子もいる。親があまりにもかまいすぎたために足がすくんで吊り橋を渡れない子もいます。親だってかつては同じように大変な経験をしているはずなんだけれども、親になってしまうともう親の目でしか子どもを見られない。自分が子どもだった時代のことを思い返して、「自分はどうだったか」という目で見れば、子どもを理解できる部分がずいぶんあるんですけどね。


――確かに……。鳥越さんはふたりの娘さんの父親ですが、ご自身の経験や取材から「男の子がおとなになることの難しさ」を指摘されていますね。

女の子にもいまだに社会的な差別やプレッシャーがあり、生きにくい面も少なくないでしょう。ただ、男の子の思春期には性衝動という大きな問題が出てきます。学校の成績、友人関係の悩み、将来に対するプレッシャーに加え、誰にも言えない、モヤモヤしたわけのわからない衝動。いくつもの問題が同じ時期に降りかかってきて、精神的に非常に不安定になります。そしてこれらをちゃんとクリアしていかないと将来がつらいんじゃないかということが漠然とわかるわけですね。たとえば受験で失敗すれば後々まで響くとか。そういうさまざまなプレッシャーが12歳から17歳ぐらいまでの間にいっぺんにやってくるんです。
今まできちんと語られてきませんでしたが、思春期の男の子の性衝動とおとなのそれとは違います。酒鬼薔薇事件の時に初めて精神分析の鑑定が行われ、そこに書かれていたのが「未分化の性衝動」という言葉でした。つまりまだ十分に成熟していない性衝動、本人にもそれが何なのかわからない衝動があるのです。今、ビデオ、ゲーム、写真などあらゆる刺激が簡単に手に入りますが、「未分化の性衝動」はそうした刺激にすぐ反応します。簡単にいえば、自分でやってみたくなる。相手の気持ちや痛みより、自分の欲望を優先してしまうわけです。

鳥越さんイメージ


――子どもからおとなへと成長する過程は女の子にとってもプレッシャーや葛藤がつきものですが、性衝動が大きいぶん、男の子が大変な面もあるのですね。親や周囲のおとながフォローしてあげられることはありますか?

本来、性衝動なんて自分で何とかコントロールしながらおとなになっていくもので、誰かに相談したりするもんじゃないんですよ。ぼくにも夢精で汚れた下着を真夜中にこっそり洗い、濡れたまま履いていたという経験があります(笑)。ただ、最近は思春期の数年間の間にコントロール不能になってしまうという子が増えているように感じます。人として成長しきらないうちに、過激な情報や出会いの場が簡単に手に入ってしまう。結果的に危険な領域へ安易に足を踏み入れてしまうことになります。
おとなになる過程には、社会性、想像力、コミュニケーション力、表現力……さまざまなものを身につけなければなりません。たとえば誰かを傷つければ、相手は血を流して痛い思いをするし、自分もつかまって罪を問われる。人を傷つけるというのは自分を傷つけることでもあるということですね。ところが体はおとな並みなのに、ある部分はたとえば幼児期から成長していないということがあるんです。事件が起きるとよく「普通の子がなぜ」と言うでしょう。あれはその子の「欠けている」部分がわからなかったということです。
ぼくが「自動販売機症候群」と呼んでいる現象があるのですが、自動販売機はコインを入れてボタンを押せば欲しいものが出てくる仕組みです。ところがコインを入れてボタンを押したのに商品が出てこなかったらどうしますか。掲示されているメーカーへ連絡するなり、販売機を置いている店の人に言うなりすればいいけど、いきなり蹴っ飛ばすなど実力行使に出る人もいます。これを「キレる」と表現していますが、トラブル解決の手順を大幅にショートカットしている。こうした現象はおとなの間にも蔓延していますね。

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