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2006/04/07
どんな子どもも「生きる力」をもっている


遠く離れた施設より、地域で子どもをケアしたい

―――「こどもの里」では子どもたちをできるだけ施設に入れないようにされているとか。それはなぜですか?

子どもの最善の利益を考えてのことです。一週間でも学校を休んで児童相談所などの施設に行くというのは、子どもにとって大きな負担なんです。以前はわたしも施設へ行くことを勧めていました。だけど、施設へ面会に行くとたいてい医療室で寝てるんです。「しんどい」「風邪ひいた」とか言って。その表情や様子を見て、「こんな状態なら、うちで泊まればいい」と思ったんですね。ふだん遊んでいる場所に泊まって、いつも通っている学校へ通学すれば、友だちが変わることもない。特に一番長い時間を過ごす学校を替わらなくていいというのは大きな利点です。地域のなかでケアできれば、子どもの負担や不安が少なくてすむということです。

―――おとなは施設のほうが安心・安全だと思いがちですが、子どもにとっては住み慣れた環境からひとり“隔離”されたような気持ちになってしまうんですね。

1週間や10日でも、子どもの心にはずっと残っているんですよ。「わたしはあそこに一週間“行かされた”」という思いが。

ここには「親が入院した」とか「お父ちゃんが警察につかまった」とか、さまざまな事情を抱えた子どもが来ます。だからこそ、親と離れていても近くにはいる、今までと同じ学校に通えるという安心感が大きいんです。

―――「親と離れる」ということに対する子どもの不安や負担は大きいんですね。一方、いったん分離した親子がふたたび一緒に暮らすのが難しいとか?

子供の里の室内写真 そうなんです。ある小学生の男の子は病気の父親と離れて「こどもの里」で生活していました。父親とはもともと気まずい関係でした。病気が少し回復して、中学生になった彼もやっと「お父さんと暮らそうかな」という気持ちになったんです。父親はもちろん息子と暮らしたい。ところが福祉事務所がその気持ちに「待った」をかけたのです。「高校3年になるまでは今のままでいなさい」と。高校3年生といえば、もう親とはあまり話をしないという年頃でしょう。本人が「お父さんと暮らす」と言った以上、少しでも早い時期から親子の接点をもたないと。そこで福祉事務所にかけ合いましたが説得できませんでした。それで最終的にはわたしのほうから「この子はここで預かるのは無理ですから、お父さんのところに帰します」と言って強引に出しました。

子どもがずっと「こどもの里」や施設にいたら、いつまでたっても家族の統合は進みません。それにやっぱり統合は早ければ早いほうがいいですよ。コミュニケーションがたくさんあることによって“情”が生まれてくるわけだから。

―――厳しい事情があるほど、「まだ一緒に暮らすのは無理なんじゃないか」と心配してしまいますが・・・

ダメかもしれない。でも、うまくいったらもうけもん。やってみないとわかりません。先に安全ばっかり考えて行動する人って多いですよね。子どもが自分で考えてやれることを、おとなが「あれはあかん」「こっちのほうが安全」と決めつけてしまう。だから子どもが自分の能力を発揮するチャンスがないんです。

日本も「子どもの権利条約」を批准しましたが、「子どもには“自分がどうしたいかを選ぶ権利”がある」などというのは、なかなか浸透しないですね。未だに「子どもは保護して育てるもの」という意識が主流です。でもそれは違う。社会やおとなの役割は、子どもが育つのをサポート(横から支える)すること。社会やおとなのやり方に子どもを当てはめるという今の発想は、子どもの生きる力やエネルギーを殺し、成長を妨げています。


子どもが親を思う気持ちを最優先に

―――親と離れて暮らす子どもたちと接していて、一番に感じられることは何ですか?

子供たちの描いた絵 子が親を思う気持ち、ですね。どんなことをされても、子どもは親についていこうとします。子どもを捨てる親はいるけど・・・。もちろん、子どもも家出します。でも、なんだかんだ言っても最後におかあちゃん・おとうちゃんが来てくれたら解決することっていっぱいあります。少年院に行った子どもたちの話を聞いても、最終的に親が来てくれたということで救われている。「親はなくとも子は育つ」と言われていますが、子どもは親に会えるように、一緒に暮らせるようにと一生懸命です。

―――切ないですね。

施設で働く人のなかには、「どんなに愛情をかけても、子どもは親を選ぶ。自分たちには乗り越えられない壁がある」と言う人もいます。だけど、もともとわたしたちは「他人」なんです。親の代わりなんてできるわけないし、わたしはするつもりもない。他人から見ればどんなひどい親でも「好きだ」「会いたい」と思う子どもの気持ちを大切にして、親との関わりをつくっていかなくては。親を思う子どもの心は「壁」じゃなくて「宝」やと思います。

そうは言っても、親のほうはなかなか変わりません。変わらない親に子どもがどう向き合って、親を乗り越えていくのか。つまり、どうやって自分自身への自信をもち、自分のかけがえのなさに気付き、自尊心をもって生きていけるようになるか。そこを支援するのがわたしたちの役割ではないでしょうか。

―――荘保さんは具体的にどんな関わりをされているのですか?

常に一歩ひいて、「親の代わり」をしないことを意識してます。ただ、「朝、ちゃんと起きる」「朝食をしっかり食べる」「夜は何時までに帰る」といった基本的な生活習慣は自尊心をもつ成長のうえで大切だと思うので、やかましく言ってます。

子どもにとって「宝」である親なので、遠のきがちな親ができるだけ子どもと接点をもてるよう事あるごとに連絡をとり、子どもの元に足を運んでもらうようにしています。そして親の抱える問題もできるだけ手助けして、子どもと一緒に問題解決にあたるようにしています。

あとは、子どもが親の話を自由にできるように気をつけていますね。わたしは全然構わないのに、子どもって「悪いな」と思うみたい。親と電話で話したこととか、気を遣って言わないんです。誰かから聞いたら、こっちから「今日、お母さんと話したんやろ?」と話しかけます。そうすると「言ってもいいんだな」とホッとする。

―――子どもなりにものすごく気を遣ってるんですね。

おとなから見えるよりもずっと気を遣ってますよ。性虐待を受けながらも親や家族に気を遣っている子もいます。うつ病やパニック障害だと診断されて、薬を飲んでいる子も少なくないです。

性虐待を受けた子は特に深刻な心の問題を抱えています。自尊心を取り戻すためには、よほど素晴らしい出会いやきっかけがないと・・・。

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