かけこみシェルターで心身癒して再出発 その夜遅くにたどり着いたシェルターは、夫の暴力からの一時緊急避難所である民間施設「スペースえんじょ」だった。 「大変だったね。辛かったね」 とスタッフに迎えられると、緊張の糸が一気に切れ、畳の上に倒れ込んだ。そこには、ミキさんと同様に命からがら暴力を奮う夫から逃げてきた数人の女性がいた。30代、40代の人に混じって30年以上も夫の暴力に耐えてきたという初老の女性も混じっていた。 ミキさんは息子と共に約1カ月間そこに滞在した。 「あんな夫と思っても、どこかであの人を頼っていた部分もある。一人でやっていけるのかという不安も大きかった。でも、同室の人たちと『戻ると、殴られ続けながら年をとっていくことになる』というような話をするうち、絶対に戻らないと心を決めました」 「一緒に、今後のことを考えましょう」と言うスタッフに、市の福祉の窓口や弁護士のところについて行ってもらった。福祉の窓口で「離婚していないと生活保護を出すのは難しい」と言われるなど「厳しい道程だった」が、以来4年経った現在、友人宅暮らしを経て母子でアパートに住み、生活保護を受けながら公立の技術専門校に通い、ある資格試験を目指して勉強している。一昨年離婚も成立した。 「子どもから父親を奪う権利はないから辛抱しようと思っていたのが間違いでした。息子は、私が殴られているのを悲しんでいたに違いない。私自身が幸せな姿を息子に見せなければと思うようになりました。母子家庭が寂しくないと言ったら嘘になりますが、今は心が満たされています」 「スペースえんじょ」のスタッフは言う。 「まずはシェルターに駆け込み、暴力の関係に終止符を打つ女性が増えています。多くの場合、心と体の傷が癒せたら次第に気力がわいてくる。私たちはその手助けをしているのです。ミキさんのように自分で新しい一歩を踏み出そうという思いになることが何より大切です」 民間のシェルターは、全国に20数カ所ある。1980年代後半、関東地方で女性の相談業務をしていた人たちがDVの深刻さを感じ、民間の手で逃げ場のない女性たちを守ろうと開設したのが始まり。DVが社会問題化してきたここ数年、急速に増えて来た。 「スペースえんじょ」は、主宰者の女性が退職金を供出して家を借り上げ、1996年に設けたもの。行政からの助成金は全くなく、スタッフもボランティア。光熱費など運営費も主宰者のポケットマネーと賛同者の寄付でまかなっており、これまでに約100 人が利用。陶器で頭を殴られ、バスタオルを血染めにしながらやって来た人もいれば、両膝を骨折してやって来た人もいる。ミキさんのように、暴力をふるう父親のいる家庭で育った人が多いのが特徴だという。自分から夫に連絡をとって戻り、また元のような暴力を受けて2度3度とやって来る人も少なくない。 「妻に暴力をふるうのは、家庭外では何の問題もない人ばかり。そのため、妻が誰かに窮状を訴えても、信じてもらえないケースが多い。問題の背景には男女の不平等な関係があります。皆がことの重大さに気づき、DVは犯罪だということを認識しなければなりません」 ☆「スペースえんじょ」への相談はTEL:0726-36-0030へ。 寄付金は郵便振替00940-7-21733(加入者名:スペースえんじょ) ☆そのほかのシェルターの連絡先と電話連絡可能時間 (掲載許可をいただいたところのみ)
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