ふらっとNOW

ジェンダー

一覧ページへ

2002/11/15
なぜ、男性トイレにベビーチェアがないの? 素朴な疑問をぶつけて"構造改革"したい


シリーズ「ジェンダーフリー・パーソン」第5回
地下鉄駅・設計担当

「男の世界」が長かった建築設計の分野にも女性が増えてきています。11年前に、大阪市交通局の建築課に技術職初の女性として入局し、地下鉄駅の設計などを担当する大野美喜子さん(30歳)もその一人。仕事を遂行する上で性差を「ほとんど意識することがない」というものの、女性の視点に立った疑問を同僚たちに投げかけることもたびたび。そんな大野さんに、ご自身の仕事について語っていただきます。

 

「なぜ男性トイレにベビーチェアがないの?」素朴な疑問をぶつけて“構造改革”したい。 大阪市交通局 設計士 大野美喜子さん


父が大工です。子どもの頃から、建築現場について行き、足場を組むのを手伝ったりしていたので、父のあとを継いで大工になろうと思って高校の建築科に進んだのが、この仕事への第一歩でした。ところが、父には、「女がそんなことをしなくていい」と言われ、2年後に弟が同じ高校の建築科に入ると、私はほとんど期待されなくなった(笑)。そして、短大の時に、区役所でアルバイトをしたのが縁で、気がついたら今の仕事についていた・・みたいな感じです。

 

同級生の「親切」に包まれた学生時代

職場で同僚たちと
職場で同僚たちと

高校の時、女子は1学年約1,000人中4人で、建築科のクラスは私1人だけだったし、短大2部に進んだ建築科も、100人中10人ほど。学生時代、ある教授に一度だけ、「君、女だから、理解できないのでは?」と言われ、その授業は必須でなかったので、即座に「もういい、帰ります」と、静かに抗議したことがありましたが、クラスの雰囲気はとても好意的でした。重い荷物を持とうとすると、先生が男の子に「お前、持ってやれ」と言ってくれたし、実習では「手が汚れるから、代わりにやってあげる」と同級生の男の子たちも親切だったので、その頃は、深く考えずに「男の子にやってもらえることは、やってもらっておこう」と思っていましたっけ。
今から思えば、何でも自分でやっておいた方が勉強になったと思いますが、そういう環境で育ってきたので、自分が大阪市交通局の女性技術職の第一号だったということも、やっぱり建築は男の世界だったのだなと思ったくらいで、私にとってはどうってことのないことでした。

1991年に大阪市交通局に入局。技術職の同期18人は、私以外みな男性。建築課には、もう1人の男性と2人で配属されました。バブルが弾ける寸前の忙しい時期だったので、新人も即戦力に、というタイミング。土木課から回ってくる地下鉄駅の構造図をベースに、タイルの張り方や照明の付け方などを付加して設計図に仕上げていく仕事に就きました。女性の視点だというわけではありませんが、最初に担当した四つ橋線岸里駅の設計は、天井の形に合わせて柔らかいイメージにしたいと考えながら図面を引きました。

女性用トイレの使い勝手が分かるのは女性だけ

建築課には59人の職員がいますが、課内のお茶汲みは、代々新人の仕事でした。先にも言ったように、同期はもう1人の男性と2人だけ。最初のうち、自然と私がお茶を入れようと動いてしまったのですが、それを見ていた先輩が、「なんで女ばっかりにやらせるの。君も動きなさい」と同期に言ってくれ、そのうち私も、「昨日は私がやったので、今日はあなたがやって」と言えるようになり、余計なことに煩わされることなく仕事が出来ました。

新設の地下鉄駅には、男女トイレともベビーシートが設置されている
新設の地下鉄駅には、男女トイレともベビーシートが設置されるようになった

私、気になったことは、すぐに口にする方なんです。たとえば、
「なんで男性トイレに、ベビーベッドやベビーチェアがないんですか」
と。先輩たちは、
「自分たちは、赤ちゃんを抱いたまま、立って用を足せるから、要らない」
と言うんです。そしたら、
「じゃあ、赤ちゃんのオシメはどこで替えるの?」
と、突っ込む。そうすると、男性も、
「それもそうだなあ。ベビーベッドが必要だなあ」
となる。当時は赤ちゃんと2人で外出する男性が少なかった背景もあるんでしょうが、どんどん言うことによって周りの人たちに分かってもらえるようになった部分は大きいと思う。私が発言したからだけではなく、時代の流れだったのだと思いますが、その頃から新設や改装する駅のトイレには、男性用にもベビーベッドが設置されるようになりました。

先輩たちには、「女性用のトイレの写真を撮って来て」とよく言われ、今も出張に行く時など、いつもカメラを携帯して、トイレの写真を撮りまくっています。男性は、女性トイレに入れないですもんね。そこで、改めて思ったのは、女性が使うものなのに、これまでは男性が女性トイレを設計してきたのだということ。使い勝手だとか、男の人には絶対に分からないじゃないですか。
ストッキングが破れた時にはきかえるスペースや、化粧直しに使うパウダールームも欲しい。全身を見ることのできる大きな鏡も欲しいと思う。全体の広さに限りがあるので、難しい部分もありますが、新設の駅ならその第一歩が踏み出せるから、私は今後も駅のトイレの構造を変えて行けるようにがんばりたいんです。

12
関連キーワード:

一覧ページへ