ふらっとNOW

ジェンダー

一覧ページへ

2003/12/05
自分が変わろうとすれば、相手も変わっていく アルコール依存症の妻をもつ夫の会


自分が変わらないと妻は治らない

小林隆明さん 悩みを語り合うなかで、気づくことがあった。これまで夫婦のあり方など考えたこともなく、家庭を顧みなかった自分を反省した。家庭のことはすべて女房まかせ。転勤族で繰り返す引っ越しも1度も手伝ったことがない。自分の役目は一生懸命働いて、給料を家にきちんと入れること。生活上のパワーバランスは夫と妻で9対1。女房が夫に意見を言うことは一切なかった。
「悪くいえば、無意識のうちに妻を押さえ込んでいました。それまでは妻を変えさせようとしてきたのが、自分を変えないと妻は治らないと思うようになった」
飲む飲まないは本人に任せ、妻と距離をおけるようになった小林さんは、その時期、自分の生き方を見直そうと退社。家事を引き受け、2人の娘をスムーズに大学に進学させるための決断でもあったのだ。その間、関西のさまざまな自助グループを訪ね歩き、専門書もむさぼり読んだ。

その頃だ。妻が自分から「酒を止めたいので病院に連れて行ってほしい」と言い出した。すでに酒を受けつけない身体になり、水ものどを通らず、吐いても吐けない嘔吐を繰り返した日を最後に酒を断った。通院しながら飲酒との闘いは続いたが、この時期、やっと夫婦の会話が戻ってきたという。

「夫の会」発足へ

少し家庭が落ち着き、新阿武山病院で「夫の集い」が開かれていることを知り、1年ほど通った。「自分を語ることで、自分が解る。自分の間違いにも気づくんです」
他の自助グループの参加者は、夫が依存症となった妻がほとんどで、女性患者への支援が遅れていることを実感してきた小林さんは、夫の集いを病院内だけではなく地域にも広げていけたらと、「アルコール依存症の妻をもつ夫の会in関西」の立ち上げを決心。2001年から「もう少し自分の足元から見つめていこう。自分が変われば、家族も変わるよ」と発信を始めた。
活動は2カ月に1度のミーティングの他、夫のための電話相談、依存症予防のための啓発セミナーなど。ただ、会員数は増えない。一般的に「依存症が病気」という認識が低いことで、夫たちは「専業主婦の妻が酒ばかり飲んで、自分に責任はない」と、離婚に至るケースがいまだに多いそうだ。小林さんは「肩ひじ張らず、少数でも息の長い活動ができれば」と語っている。

依存症になると一度断酒できても、その継続はなかなか難しい。小林さんの妻も今年になって再飲酒の時期があった。小林さんは2人の関係の難しさを「病気だと解っていても、いきなり全ては受け入れられない。15年にわたる苦しみを思い出し、酒を飲む姿を見ると、恨みつらみなど心の隅にあるものが顔を出すこともある」と話す。
断酒できたことで、2人の関係が危うくなる場合もあったそうだ。
「依存症の中でもそれなりの役割を心得てきた妻。妻が飲むことを理由に勝手気ままにやってきた自分。この関係で、妻が断酒できて変わったにも関わらず、自分が急に変われないことでバランスが取れない状態になってしまうんです」
ただ、以前の小林さんとは違う。同じ悩みをもつ夫たちにこう語りかける。
「自分も最初は誰にも言えなかった。でも助けを求めた時、世の中には専門医療がこれほど整い、たくさんの自助グループがあり、あちこちで啓蒙発信が行われていて、自分が行動を起こせば解決の道があるんだと驚かされました」

関連キーワード:

一覧ページへ