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2004/11/05
一人親家庭サポーター天野和昭さん 父子家庭になって見えてきたもの


父子家庭になって見えてきたもの。一人親家庭サポーター天野和昭さん

 

気持ちのすれ違いばかりだった結婚生活

38歳の時、8年間の結婚生活にピリオドを打った天野和昭さん(51歳)。感傷に浸る間もなく、妻が出て行った翌日から5歳の息子、3歳の娘と向き合う日々が始まった。保育園の送り迎えにはとうてい間に合わない高校教師の仕事を辞め、実家のマッサージ治療院を手伝いながら、整体の技術を学んだ。料理の本を買い込み、子どもたちにもたせるお弁当は冷凍食品を使わない手作りにこだわった。とまどいながらも娘の衣服や髪の毛を整えた。
自他共に認める「亭主関白」で、そのことに誇りすら抱いていた天野さんだったが、区切りのない育児と家事に奮闘するうちに思い上がっていた自分の姿が見えてきた。同時に、必死に妻が訴えていた言葉の本当の意味も。

「男は仕事に全力を尽くし、女は家事・育児を一手に担うもの」。昔は、何の疑問もなくそう思い、妻も当然そうだろうと決めてかかっていました。ところが「手伝って」「早く帰ってきて」などと言われるからイライラしたものです。妻は妻で、何かといえば仕事を盾にして育児の大変さを理解しようとしないぼくに苛立ちを募らせていたのでしょう。8年間つきあった末に結婚したので、お互いのことはよくわかっているつもりでした。でも肝心の「結婚とは、結婚生活とは、どういうものか」を教えてくれたり、性別役割分業を否定するようなことは誰も言ってくれなかった。実際に結婚生活が始まって初めて「なんでこんなにわかり合えないのか」と思うことばかりで、すれ違いを修復できないまま離婚することになったわけです。
だから今、若い人たちに「なぜ結婚するのか」「結婚生活を楽しく維持していくためにはどんな工夫がいるのか」という話をする場があればいいなと考えているんですよ。

 

お弁当は「愛情の塊」

野菜の写真 子どもたちをぼくが育てることについては、まったく抵抗はありませんでした。むしろぼくは、離婚は仕方ないにしても子どもたちとは絶対に別れたくなかったですから。きょうだいを離れ離れにしたくなかったので、働きながら子どもふたりを育てていくにはぼくのほうがいいだろうということでお互いが了解したのです。
こうして父子家庭となったわけですが、子どもたちとの生活のなかで、たくさんのことを学びましたね。たとえばお弁当。『幼稚園のお弁当100選』なんて本を買って、彩りも考えながら一生懸命つくるんです。海苔をアニメの主人公にかたどって切ったりして。それなのに、子どもが開けた形跡もないまま持ち帰ってきたことがありました。心をこめてつくったお弁当を、自分の手でゴミ箱に捨てる悲しさ、くやしさ。子どもにも「これはあまりにも失礼だろう」と話しました。
だけど実は、ぼく自身もやってきたことなんですね。結婚していた頃、妻がお弁当をつくってくれていたんですが、忙しくて食べ損なったことが何度かありました。職場のゴミ箱に捨てて空の弁当箱を持って帰った時、「箸をつけた後がない。捨てたんでしょう」と怒られました。そのまま持ち帰った時も怒られました。ぼくは「弁当も食べられないぐらい忙しく働いてたのに、なんで文句を言われなきゃならないんだ」と腹を立てました。「食べる時間がないほど働いてくれてすいませんとは言えないのか!」と大声で言い返しました。でもね、お弁当はエサじゃないんですよ。たとえ昨夜の残り物でも、少しでもおいしく、栄養のバランスもと考えながら詰めるんです。子どもたちのお弁当をつくるようになって、お弁当は「愛情の塊」だとわかった。それをぼくは突き返してゴミ箱に捨てさせた。なんてひどいことをしていたんだろうと、ようやくわかりました。これはほんの一部で、子どもたちとのやりとりを通じて多くのことを教わりました。

 

子育ては親の権利

転職するのに迷いはありませんでした。子どもとの生活を大事にしたかったし、学校という組織のなかで仕事をすることをしんどく感じ始めてもいましたから。離婚の翌年に入会した、父子家庭の自助グループ・広島父子会でも、いろんなお父さんたちと出会いました。 
会社人間として生きてきたけど、離婚と同時に子育て最優先に切り替えて、出世をあきらめる代わりに残業、転勤、出張をすべて拒否して子どもを育てた人。サラリーマンから宅配業に転職し、ゼロ歳から子どもを助手席に乗せて育ててきた人。ぼくも含めて、家庭という「形」を支えるのが男だという価値観を切り替えて生活形態をガラッと変えたところが共通項で、お互いにわかりあえる部分がありました。特に、あるお父さんの言葉がとても印象深かった。「天野さん、『子どもを育てるのは面倒くさいけど、親の義務だからしょうがない』 と思ってるやろ。だけど子育ては権利なんだよ」と。養護施設に預けるのも、別れた妻に預けるのも、おばあちゃんに育ててもらうのもいい。でも自分と子どもたちだけで生活するというのは、ものすごい権利なんだと言われたんです。正直言って、その時はピンときませんでした。でも確かに自分と子どもたちだけの生活のなかから見えてくる世界があるんです。この精神的な変化を伝えたいという思いが、「一人親家庭サポーター」の活動へとつながるんです。

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