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多民族共生

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2002/06/27
鄭禧淳さん(京都コリアンセンター理事長) 在日コリアンに穏やかな晩年を


異郷での重く長い人生で、「心からホッとできる居場所」を持てなかったであろう在日コリアン一世たち。老後を迎えた彼らに「晩年こそ母国語で心置きなくくつろげる場所を提供したい」という鄭禧淳(チョンヒスン)さん(59歳)らの呼びかけで、2001年2月、京都市にデイサービス施設「京都コリアン生活センター・エルファ」が開設した。現在、デイサービスを利用する在日高齢者は78人。心が通い合う仲間が集う場で、ハルモニ(おばあさん)たちはチャンゴ(太鼓)に合わせ元気な歌声を響かせている。


センターに名づけられた「エルファ」は、朝鮮語でうれしい、楽しいという気持ちを表わす感嘆詞。36年間、在日高齢者の生活相談に乗ってきた鄭禧淳さんが、日本のデイサービスで肩身の狭い思いをするのではなく、在日コリアンの独自性を尊重した介護をしたいと、京都市南区東九条に開設した全国でも珍しい高齢者施設だ。
2000年4月の介護保険制度と同時に居宅サービス事業は始めていたが、ほとんどの在日一世が80歳以上となり、独居家庭が増えて孤立しがちなことから、エルファを「仲間と語り、安らげる場所に」と昨年NPO法人化。朝鮮語が話せるヘルパーも独自に養成し、デイサービス施設として新たにスタートした。

“わが家”の様な雰囲気の「エルファ」。韓国済州島のシンボル「トルハルバン」の石像(左下)が目印

大半の資金は寄付でまかない、ほとんどの備品が80人以上の人からの寄贈品や廃品利用品という手作り感覚たっぷりの2階建て約200平方メートルの室内外には、懐かしい故郷を思い出す絵やアートが飾られ、故郷の言葉が飛び交う。朝鮮の将棋や草人形作りなどの故郷の遊びがあり、故郷の歌や踊りもある。そして、共に食べるのが、在日生活で築いた日本のメニューも考慮しながら、必ずキムチやチゲなどの民族の味をプラスした介護食。
こうした形の福祉施設こそ、長年、鄭さんが描き続けてきた夢だったのである。「ここではスタッフ一人ひとりが意見を出し合う主人であり、利用者が元気になっていく姿を見て、みんなが本当の自分の親のように喜んでくれる。私の願いだった『共に生きる』ということが自然な形でできている。これこそ人権問題の基礎じゃないかと思うのです」

歴史が残した心のバリアを取り払い、ほんとうの共生へ

今日のメニューは、カレーにマカロニサラダ、ワカメスープ、キムチ・・・。故郷の味を盛り込んだ介護食

これまで鄭さんの「共生」という熱い想いの裏には、常に拭い切れない不安があった。「バリアフリー」や「共生」という言葉が日本社会で頻繁に使われるようになった今も、在日コリアンの高齢者や障害者には、国籍条項を楯にしたさまざまな差別がはびこり続けている。まして、在日コリアン高齢者の心のバリアにまで目を向けようとする人はあまりに少ないからである。
そのひとつが、外国人を排除してきたことで、在日一世に無年金者が多い国民年金法だ。当事者の運動でいくつかの自治体は独自に給付金制度を設立しているが、通常の年金額にはほど遠い。京都市でも2000年から給付されるようになったものの、その額は年間でも12万円。そして、さらに大きいのが言葉の壁である。高齢になった在日一世は、痴呆などで日本語を忘れていき、自分が育った国の朝鮮語でしか話せなくなっている。
鄭さんのもとにも、「日本語の説明がわからずに給付金が受けられない」「病院や特別養護老人ホームで言葉が通じないで困っている」「家庭内でもハラボジ(おじいさん)、ハルモニの話す朝鮮語がわからない」といった相談がここ数年増えていた。こうした中で始まった介護保険制度。自分の名前が書けない人がほとんどであり、会話ができなければ認定作業もできない複雑な仕組みの中で、保険料は徴集されてもサービスがスムーズに受けられないという状況が生まれるようになったのだ。

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