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多民族共生

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2003/01/10
金博明さん(高槻むくげの会事務局長) 日本が、僕の生まれ故郷なんや


祖国の歴史や文化を学んで、差別に向き合える強い子に

ボランティア指導員とともに平均年齢70歳パワーで勉強に励む「アジメ学校(識字教室)」のアジメ(おばさん)たち
ボランティア指導員とともに平均年齢70歳パワーで勉強に励む「アジメ学校(識字教室)」のアジメ(おばさん)たち

1972年の正式発足から地道な差別撤廃運動を続けてきたむくげの会は、これまで大きな成果を残してきた。1979年には、就職差別の根源ともいわれた高槻市職員採用試験における国籍条項を撤廃し、1980年度からは北摂7市で、在日韓国・朝鮮人も市職員として採用されるようになった。また1985年には、全国初の行政の取り組みとして、高槻市教育委員会が「在日韓国・朝鮮人教育事業(2001年より国際理解教育事業と改称)」をスタート。さらに市独自の外国人障害者福祉金制度も設定されることとなった。
「指紋押捺の問題にしても、当初は本当に変わるなんて思ってもいなかった。一丸となって声を上げ、運動を続けてきてこその大きな成果でした」
その後も、タチソの保存、従軍慰安婦問題、地方参政権の国籍条項撤廃運動などに取り組みながらも、着実に各地区に広げてきた子ども会や各種講座。共生のためには、子どもたちが小さいうちから祖国のことや歴史を知り、差別に立ち向かっていける強い姿勢を育んでいくことが不可欠と考えたからだ。
「たとえば、歴史的背景を知らなければ、なぜ親が酒ばかり飲んで、ダラダラした生活をしているのかが分からない。それは仕事がないためであり、仮にあっても、安い賃金で朝から晩まで働かなければならないハードな仕事しかなかったということなど、現実に目を向けてほしいんです」

新たな差別が始まっている

アジメの学校の壁には力作の川柳がズラリ
アジメの学校の壁には力作の川柳がズラリ

しかし、最近は活動も転換期にある。在日韓国・朝鮮人以外の外国籍市民(ニューカマー)が増え、在日韓国・朝鮮人の意識も変わりつつあることに、金さんは危惧する。
「この頃、差別の対象が、在日韓国・朝鮮人からニューカマーに移ってきています。日本人、在日韓国・朝鮮人、ニューカマ-と階層的になり、韓国・朝鮮人は徐々に日本人のような位置付けになりつつあるような気がする。東京では警察署が『中国人を見たら、通報してください』といったチラシをまき、メディアも露骨に犯罪者扱いする。高槻市でもある銀行が『外国人を見たら注意してください』というポスターを貼ったりする。外国人がすごく住みにくくなっています」
4~5年前からは、会でも在日韓国・朝鮮人だけではなく、多文化・多民族共生を目指し、すべての外国人の権利向上への取り組みへと方向転換してきた。
しかも、ニューカマ-として生まれてくる子どものほとんどが日本国籍で、全体的に日本国籍の子が圧倒的に増えている。その結果、市では在日外国人の人数が減ったとし、外国人教育に対しての予算や指導関係者を減らす傾向にあり、問題は深刻化しているのだ。
「実際は日本籍でも、小さい頃に海外で育ち、日本語が話せない子が多い。逆に日本語は話せても、学校の勉強が遅れている子が目立ちます。日本以外の文化的背景をもって育ってきている子どもたちのために、きちんと高槻市の教育方針を立て直してほしいと思っています」
今、市内には住むのは40カ国以上もの国の人たち。ニューカマーとして来日したばかりの子は、市から週に1~2時間通訳が派遣されるが、それだけでは追いつかないのが現実だ。学力の遅れにも対応できず、いつまでもお客さん扱いになり、そういう子に対していじめが起きるなど、問題は山積みだという。

僕らが生まれ、死んでいくのはこの日本

金博明さん さらに、在日韓国・朝鮮人であっても日本名を使えば、就職差別なども減り、それほど深い悩みを抱える人が少なくなってきた。そのため、同会に集まって共に行動することに意味を感じない世代が増えてきている。親が在日であることを子どもにも伝えず、成長するまで知らずに育っていく子も多いそうだ。
「何も知らされずに大きくなって、親が信じられずに悩むより、子どもはできるだけ早く自分の立場を知ったほうがいいと思う。朝鮮人というマイナスイメージを持って生きてきた世代が、自分の立場を隠そうという意識のまま子育てをして、子どもの真実を伝えずに生きていくのは、いいことではないんじゃないでしょうか」と語る金さん。
実際に、目に見えない差別は、まだまだ残っている。金さん自身も最近、入居差別を受けたばかりだ。アパートを決め、手付け金を支払って、引っ越し日まで決めていたのだが、管理会社から「外国人」はダメだと断られた。他の日本人と同じように、日本で生まれ育っているにも関わらず・・・。
だからこそ、後に続く子どもたちに伝えたいのだ。
「僕は、自分の在日韓国・朝鮮人という立場を認識して、在日に対する差別と偏見に対して向き合っていってほしいと思うんです。一世なら、日本がイヤだから国に帰ろうかという発想もありえるかもしれない。でも、僕らにとって日本が生まれ故郷であり、生活基盤は日本にしかないんですよ。多くの日本人がこの国で生まれ、暮らし、この国で死んでいくように、僕らもこの国で同じように生まれ、死んでいくしかない。だからこそ『自分の立場を自分で認め、周りも認めてくれて生きていく』のが、いちばんいいと思うんです」
そこに至る道筋で、文化や歴史を学ぶことで自分の立場をわかりあおうと願う金さん。最後にこう締めくくった。「逃げたらダメなんですよ」。


高槻むくげの会/大阪府高槻市城内町1-35
TEL 072-671-1239

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