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2008/02/07
映画「新・あつい壁」 ハンセン病問題はまだ終わっていない


人生の残りの時間をかけて差別と闘う

「みんな、1960年代には病気は治ってしまっていた。だけど、らい予防法という強制隔離絶滅政策を基本理念とし法律が1996年まで残ってしまっていたために、治っても退所することができなかった。しかも日本政府は1960年代から繰り返しWHOの勧告(強制隔離から開放医療への切り替え)を受けていたのに、聞き入れなかったんです。そのため、2万4800人もの人が療養所で無念の思いを抱えたまま死んでいきました。そして71%の人が療養所の納骨堂に合祀されています。瀬戸内海にある3つの療養所では、亡くなった人の99%のお骨が納骨堂に納められています。死んでも故郷に帰れなかった人ばかり。これからだってそうじゃないでしょうか・・・」

神さん

神さんは、「ハンセン病問題は終わっていないどころか、新たな問題が起こってくるのではないかという不安をもっている」と話す。たとえば、熊本地裁の判決後、20億円以上の予算を使ってリニューアルオープンしたハンセン病資料館の展示内容について。強制断種や強制中絶、中絶胎児をホルマリン漬けにしていたことなどに触れておらず、「国の過ちを覆い隠そうとしている」と指摘する。また、「ほとんどの入所者が社会復帰をあきらめ、療養所で残りの人生を過ごしたいとしているのに対し、国は療養所の将来についての具体策を何ら示していない。私たちが自然消滅するのを待っているとしか思えない」とも話す。

「私は、ハンセン病問題には差別問題の原点があると思っています。ハンセン病に対する差別は間違っていたことが社会的に認められましたが、日本社会では今も在日コリアンや障害者など、いろいろな人に対する差別が起こっています。ハンセン病問題から本当の意味では学んでいないということです。どこかでこの連鎖を断たなければ、日本の社会は決していい社会にならない。そのために私が自分の体験をさらけ出しながら、市民によびかけているんです」。神さんの講演を聞いて、「やっとハンセン病問題の本質がわかった」と言う人は少なくない。しかし「家族は今も耐えているでしょう」と神さん。「“あいつ、早く死んでくれ”と思っているに違いない。こっちは“死んでたまるか”と思っている。そういう葛藤が続いています」。
73歳という年齢を考えれば、人生の残り時間との闘いだとも話す。神さんの、命をかけた思いに対して、私たちは、私たちの社会は、どう答えられるだろうか。

2008年2月7日更新・text.社納葉子

ハンセン病問題基本法を制定し、 開かれた国立ハンセン病療養所の未来を求める国会請願署名の呼びかけ…(財)大阪府人権協会のページ

新・あつい壁チラシ
映画「新・あつい壁」
●監督
中山節夫
●出演
趙ミン和、安藤一夫 、 ケーシー高峰、高橋長英、左時枝 、夏八木勲
上映スケジュール
●あらすじ
まだ駆け出しのフリー・ルポライター卓也は取材で知り合ったホームレスの男・友田から、55年前に熊本で起こった殺人事件を聞かされた。
これを取材すればいい記事になると思った卓也は知り合いの雑誌編集長福島にかけ合うが、自費で取材しろと相手にしてくれない。あきらめきれない卓也は友田の話を手がかりに少しずつ調べはじめる。それは、ハンセン病患者が犯人とされた事件だった。卓也は熊本行きを決意する。
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園に自治会を訪ねた卓也は、当時のことに詳しい増井と佐伯から、事件や裁判についての詳細な話を聞く。それは、聞けば聞くほど、犯人とされ死刑になった男・勇吉の無実を思わないではいられない話ばかりだった。さらに卓也は、勇吉の最後の教誨師として関わった牧師・坂上から、その裁判に直接関わった書記官の証言として「勇吉さんをボロ雑巾のように死に追いやった」という話を聞く。そこにあった真実とは何か…

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