特集

直面する人権課題

一覧ページへ

2016/09/16
子どもの貧困を減らすためにできることは/NPO法人CPAO代表 徳丸ゆき子さん


国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議では毎年様々な切り口で人権をテーマにした「プレ講座」を開講している。2016年度のテーマは「直面する人権課題を考える」。連続講座の様子を報告する。

子どもの貧困を減らすためにできることは?NPO法人CPAO代表 徳丸ゆき子さん

「子どもの貧困」が大きな社会問題として認識されてきました。貧困状態にある子どもたちは、具体的にどんな状況なのか。背景には何があるのか。そしてどんな支援が求められているのか。2013年にCPAOを設立し、地域で子どもたちに寄り添い続ける徳丸ゆき子さんに語っていただきました。

自分自身が「当事者」だった

 大阪子どもの貧困アクショングループは、大阪市生野区で活動しています。「貧困アクショングループ」という名前は当事者の方には抵抗感が大きく、Child Poverty Action Osakaという英語名の頭文字をとってCPAO(シーパオ)と呼んでもらうようにしています。

 こういった活動をしていると私はよく「なぜ貧困問題に関わるようになったのですか」と訊かれます。CPAOを立ち上げる前は、不登校やひきこもりの子どもたちを社会や仕事につなげるNPOや、国際協力NGOで日本国内事業の担当者として働いていました。私自身が集団生活が苦手で友だちも少なく、何かと「生きづらい」子どもだったので、そうした子どもをサポートできる大人になりたかったのです。これらの活動のなかで、先進国といわれる日本で多くの子どもたちが貧困のなかにいることを知りました。2011年に東日本大震災が起きた時には、直後から被災地に入り、子どもたちを支える活動をしました。

 また、私自身が現在小学5年生の息子がいるシングルマザーです。シングルマザーが働きながら子どもを育てる大変さを身をもって体験し、「仕事か子どもか」というギリギリの選択の末にNGOを退職しました。

「悲劇を繰り返したくない」という思いとともに

 そんななか、大阪では「貧困」を象徴する2つの事件が起こりました。2010年の「西区2児放置死事件」と、2013年の「北区母子変死事件」です。西区の事件は、1歳と3歳の子どもが真夏に食べ物も飲み物も与えられず、50日間放置されて亡くなりました。母親は23歳という若さで、風俗の仕事で生活を支えていました。その後、お母さん自身がネグレクトのなかで育ち、中学生時代には性被害を受けていたこと、離婚後は元夫や父親も含めて一切のサポートがなかったことなどがわかりました。

 北区の事件は、28歳と3歳の母子がマンションの一室で亡くなっていたというものです。「もっとおいしい食事をさせてあげたかった」と書かれた遺書がありました。近所では汚れた服を着て、暗い顔で歩いている親子の姿が目撃されていましたが、声をかけることはできなかったようです。

 どちらの事件にも胸が張り裂けるような思いでした。そして北区の事件が報じられた翌日、「こんな悲劇は繰り返したくない!」という思いで、仲間たちとともにCPAOを立ち上げたのです。

聞き取りから浮かび上がった過酷な人生

 私たちはまず、知ることから始めようと考えました。そこで2013年7月から2014年12月にかけて、100人のシングルマザーから話を聞いたのです。母親自身がどういった環境で育ったのか。生育歴から子どもが生まれるまでの経過、そして今は何に困っていて、どんなサポートが必要なのか。そこでわかったのは、想像以上に過酷な人生の数々です。そして子どもの頃からの「不利」がたまりにたまった結果であるさまざまな「生きづらさ」「困難」が今後の人生にも影響を及ぼしていくだろうことが想像できました。

 そのひとつが「貧困」です。私たちは子どもたちを救うために「子どもの貧困」と表現していますが、正確には親の貧困です。厚生労働省が2014年に発表した「相対的貧困率に関する調査分析結果について」によると、国民の16.1%が貧困層であるということがわかりました。相対的貧困率とは世帯所得から国民一人ひとりの手取り収入を計算し、並べた時に中央値の額の半分に満たない人の割合です。日本の最新のデータで年収122万円以下、すなわち月収10万円以下の方を指します。これが6人に1人が貧困であるという「子どもの貧困率」へとつながっていきます。

子どもと直接出会い、信頼関係を築く

 私たちの活動の中でははっきりと「貧困」が見えます。朝食も昼食も食べていないと事務所に駆け込んでくる子。洗濯をしないので服は汚れ、臭います。服がないため、休みの日でも制服を着ている子もいます。親に抱きしめられたり褒められたりした経験がないなど、足りないことだらけで、心が荒れている子も少なくありません。小学2年生の子どもが「もうめちゃくちゃして、はよ死のうと思ってるから」と言うのです。

 最近は貧困対策として「教育の機会均等」が挙げられ、学習支援の取り組みも広がってきました。しかし、十分な食事や清潔な衣服も与えられない子どもたちが、将来のために勉強しようなどと考えられるでしょうか。教育にたどり着かせるために、まずは今の生活を安定させ、福祉的な視点でサポートすることが重要です。

 子どもの貧困を親だけの責任にしてはいけません。私たちは、親のSOSを待たずとも、子どもと直接出会い、しんどさを発見できる、気付ける関係をつくっていくことを念頭に活動しています。

 子ども食堂もそのひとつです。現在は週3日、ごはんを一緒に食べています。2日1回顔を合わせていると、「今日は元気ないな」「なんだかプリプリしているな」と子どもたちの様子がわかります。しばらく顔を出さない子がいれば、学校の前や公園などに探しに行き、見つけたら「どうしたん? なんで来ないの?」と声をかけたりします。

 毎年、長期休みには、1泊や2泊、夏休みには1週間、子どもだけを預かって一緒に過ごします。その間に子どもたちはどんどん穏やかな表情になっていきます。規則正しくごはんを食べて、思い切り遊んで、しっかり寝る。そんな生活のなかで、みんな少しずつ子どもらしさを取り戻していきます。


国としての責任を果たしてほしい

 私たちの活動は、短期、中期、長期と分けて取り組んでいます。短期とは緊急介入です。「しらべる(調査)」「みつける(アウトリーチ)」「つなげる(相談・コーディネート)」「ほぐす(介入・直接支援)」という形で、当事者の声を直接聞きながら、支援機関へつなぎ、心や現実的な問題を解きほぐし、一緒に乗り越えていければと考えています。

 中期的なものは「養育の社会化」のモデル事業です。まずは子ども食堂を基盤とした、つながり支え合うコミュニティづくりに取り組んできました。子どもが歩いて行ける距離に最低ひとつ、子どもが駆け込める居場所があってほしいと思います。

 また、大阪社会保障協議会や大阪弁護士会などと連携して「シングルマザー・サポートブック」の制作や「シングルマザーとこどものサポーター養成講座」の開催もおこなっています。

 長期的な取り組みとは政策提言です。さまざまな団体とも連携しながら、提言やカウンターレポートの提出などをしてきました。日本の相対的貧困率はOECD加盟国34カ国中10番目に高く、OECD平均を上回っています。一方で子どもに対する公的資金の投入額は低く、たとえばOECD(経済協力開発機構)加盟国中、日本のGDP(国内総生産)に占める教育機関への公的支出の割合は比較可能な30カ国中で最下位でした。これでは国が国としての責任を果たしているとは言えません。国には諸外国並みの子どもたちへの公的資金の投入や、しんどい状況におかれている方々が使いやすい制度を整える制度改革を求めていきたいと思います。

 民間にもまだまだできることがあります。フットワーク軽く、私たちだからこそできることを考えていきたいものです。みなさんの地域にもきっとしんどい子どもたちがいるはず。そういう子どもたちとどうやってつながり、温かさを伝えられるのか――。CPAOの取り組みがヒントのひとつになれば幸いです。


●国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議
同会議では2002年から様々な人権課題をテーマに「プレ講座」を開講している。今年度のテーマは「直面する人権課題を考える」。「子どもの貧困を減らすためにできることは?」「同性婚はなぜ認められないの?」「人工知能(AI)の進化とこれからの社会」「人口変動 漂流する高齢者」「分断社会を終わらせる:格差問題への新たな提案知憲」をテーマに5回連続で講座がひらかれる。

関連キーワード:

一覧ページへ