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「医療崩壊」が叫ばれて久しい。各地で小児科、産科を中心に休止、廃止が相次いでいる。自治体財政の悪化、地方の場合は新たな医師臨床研修制度による医師不足などが、その背景にあるといわれるが、市民だれもが当事者である問題だ。
 どうしたら医療崩壊を食い止めることができるだろうか。そのヒントの一つとして、全国から注目を集めているのが、兵庫県丹波市の市民グループ「(兵庫)県立柏原(かいばら)病院の小児科を守る会(以下「守る会)」。子育て中の20代、30代の女性たちが、廃科寸前だった小児科を救い、以前よりも充実した小児科医療体制を実現させた。その道のりを、背景と共に取材した。

地域医療を住民の手で守った 県立柏原病院の小児科を守る会

小児科医師の退職宣言

 大阪からJR福知山線の快速で約1時間半。兵庫県中東部に位置する丹波市は、穏やかな山々に囲まれた、人口約7万人の町だ。市の南部 の山懐に、13の診療科を擁する兵庫県立柏原病院がある。

 隣接する篠山市を含む丹波地域における、3つの基幹病院のうちの1つとして、地域住民に救急医療や専門医療を提供してきた病院だが、07年4月5日、地元の丹波新聞(週2回発行。発行部数1万 3000部)に、こんな見出しがおどった。

「兵庫県立柏原病院の小児科存続危機 小児科実働医『0』も」

 小児科の和久祥三医師(41)が退職すると宣言したからだ。
 手前勝手な退職宣言ではなかった。丹波は和久医師の古里。地域への思い入れもあって勤務していたのだが、労働環境が過酷すぎたからだった。

和久医師 県立柏原病院に当時もう1人いた小児科医が県の人事で院長への就任が決定し、実質的に、医師が和久さん1人だけになることを余儀なくされた。しかも、前年8月から近隣3病院の当番制で夜間救急にあたっていたが、当初丹波地域の病院で7人いた小児科医が、小児科閉鎖と人員削減のあおりを受け、地域での実動小児科が2人になることが決まっている。丹波地域の小児人口は約1万8000人。小児科医1人あたりの小児人口は、全国平均1200〜1300人とされるが、このままでは和久医師は日勤帯を除けば約9000人を担当しなければならなくなる。

「すでに月に7日以上宿直や小児輪番を担当し、夜ごとひっきりなしに外来患者を診ていました。睡眠不足で疲れ切っていて、いつ事故を起こしてもおかしくな い状況でしたから、もう限界。小児科が実質私1人となる体制で『勤務を続ける』と言うほうが無責任だと思ったんです」と和久医師。
 研修医を送り出す5月末に退職しようと決意。それは行政、医師会、地域住民への警鐘でもあった、この警鐘は医療事情を深く理解してくれた新聞記者がいてくれたから発信できたと振り返る。

「私たちにできること」考え発足

 丹波新聞のこの記事を書いたのは、かねてから医療関係記事を担当し、「すでに1年で県立柏原病院の医師が9人減っていて、危機感をもっていた」という足立智和記者(36)だった。子育て中の女性の生の声を聞こうと、4月19日に「医療について」座談会を開催。その座談会の参加者の中から、「守る会」は生まれた。

「11人集まった座談会は『カフェでケーキをいただけるんですって』のノリで参加。最初は小児科がなくなると困るという不平不満を話していたんですが、1人が県立柏原病院を受診した時の体験談を聞かせてくれたんです。午後8時ごろ、子どもがぜんそくの発作を起こし県立柏原病院に駆け込んだら、子どもを抱えた人など30人くらいの患者が待っていて、 やっと受診できたのは午前2時ごろ。4時ごろに入院した。朝、目が覚めると、同じ先生が外来の診療をしていて、びっくりした、と」

岩崎さん こう話すのは、守る会事務局の岩崎文香さん(35)。この体験談から、座談会の参加者は小児科医の激務ぶりを知ると共に、足立記者から「コンビニ受診」という言葉を聞いた。
 コンビニ受診とは、「病院が24時間開いているから、具合が悪いからといって、昼夜を問わず軽症で病院に駆け込む行為」のこと。こういった受診が多いため、重篤な患者の待ち時間が増え、医師を疲弊させる。県立柏原病院小児科の場合、時間外診療(17時〜翌8時)の受診者100人のうち、入院が必要があるのは10人くらい。残りの90人は翌日の受診でも間に合う人たちだと、足立記者は伝えた。

「これを知って、やがて『私たちに何ができるだろう』という話になりました。私たちはコンビニ受診をやめなければいけないと気づくと共に、県に小児科医を増やしてくれるようお願いしよう。そして、お医者さんがどんな過酷な勤務をされているのか住民に知ってもらおう。そのために署名活動をしようとなったんです」(岩崎さん)

 翌4月20日、「署名活動なんて生まれて初めて」の主婦7人で守る会が発足。すぐさま活動が始まった。

 
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(C) ニューメディア人権機構

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