
女性問題から男女共生問題へ、という流れのなかで、「世の中には男と女しかいないのだから」といった言葉を何げなく口にすることはありませんか。ここで考えてみたいのは、「男と女しかいない」の部分。「じゃあ、私たちは?」と思う人たちが少なからずいるのです。ホモセクシュアルやレズビアン、あるいは性同一性障害の人たち。このシリーズでは、そういった性的マイノリティの人たちの人権について考えていきたいと思います。
このほど自伝記「Search〜きみがいた」(徳間書店)を出版した平安名祐生さん(29歳)、恵さん(28歳)。二人は結婚して3年、大阪府堺市のマンションに住むごく普通のカップルですが、戸籍上では祐生さんが「妻」、恵さんが「夫」。実際の夫婦関係と戸籍上の性別が逆。偶然にも、二人とも生まれ持った性に違和感を覚え、逆の性で生きることを選んだ夫婦なのです。
祐生さんは「夕子」と名付けられ、女の子として育ったが、物心ついた時から自分を男だと信じて疑わなかった。ごく自然に男の子たちと遊び、「なぜ僕にはオチンチンがはえてこないのだろう」と悩んだ。成長するにつれ、体の女性化は否応なく進む。生理が始まり、胸がふくらみ始めると、「この僕がなんで?」と割り切れない思いで、胸にサラシを巻いた。
「何もかも嫌になった」中学時代は、不良グループに交じりケンカや万引きをした。追い詰められて、手首を切ったこともある。高校を卒業してOLになったが、「もうこれ以上自分を騙して“女装”をしたくない」と、20代前半は男性のふりをして建設作業員として働いた。
「自分は変だ、生まれ損ないだ――と苦しんできたのですが、ある時テレビで『オカマ』『オナベ』と呼ばれる人たちが大勢いることを知り、衝撃を受けました。その人たちの勤めている店を訪ねたのが、自分の望む性で働き、生きていく道はあるのかを探る第1歩でした」
普通の同性愛者とは違う?
恵さんは、「恵(めぐむ)」として生まれた。ままごとや人形遊びが好きで、「女の子と遊ぶ方が居心地がいい」と感じていたが、家でも学校でも「男らしくなりなさい」と言われ、自分を奮い立たせて剣道を習ったりした。思春期になると男の子を好きになり、「ホモかも」と思うようになった。ところが、高校時代に思いを寄せた男性の恋人から「メグは普通の同性愛者とは違う」と言われた。
「私が抱えていたもやもやした疑問を指摘されたんです」
大阪ミナミのショーハウスで「ニューハーフ」として働き始めたのは、19歳の時。たまたま知り合いに連れられていったその店の人に、「同類を見れば分かる」と言われたのをきっかけに、「女として生きて行こう」と決めた。
命を縮めても、逆の性になりたい
二人は、それぞれに勤めた店で、生まれ持った性と異なる性で生きていくため情報を得た。闇で行われているホルモン注射や性転換手術だ。
「日本では認められていないことも体を傷めることも承知です。たとえ命を縮めようとも、体が心と反対の性であることに耐えられなかった」と二人は口をそろえる。
その後、偶然に出会い、話すほどに、世の偏見と闘わなければならなかった苦しさや障害のために“異性”とつきあっても別れなければならなかった辛さを分かり合え、つきあうようになった。折しも「性同一性障害」が疾患と認められ、埼玉医大が女性から男性への日本初の公的な手術を実施し、話題になっていたころである。「互いに支え合いたい」と結婚した二人は、「自分たちのことを分かってもらいたい」と半生を本に綴ったのだった。
「僕は、はじめのうち、元は女だったことがばれるのが嫌でしたが、恵とつきあううち、そんなことどうでもいいように思えるようになってきた。今の僕には、人にどう見られるかより、自分がどう生きていくのかの方が大切です」(祐生さん)
「私にとって、逆の性で生きることは、『男らしく』『女らしく』でなく、『自分らしく』生きることでした。ただし、私は完璧な女になれたとも、なりたいとも思っていない。私は私はでいい。世間一般の女性と比べる必要などないと思っています」(恵さん)
二人の著書は、思わぬ反響を呼んだ。同じ障害のある人たちからの手紙にまじって、障害とは無縁な人たちからの手紙が多く寄せられたのだ。
「これまで、世間の常識に従おうとしてきたが、そんな必要ないと思った」
「私も、自分自身の目的に向かって一生懸命に歩んでいきたいと思った」
生き方に苦しんでいるのは自分たちだけでないと思うとともに、「自分らしく生きるって? 個性って?と改めて考えた」という二人は言う。
現在、パソコン教室開業に向けて準備を進める祐生さんと、新地のクラブで働く恵さん。今後も「性同一性障害」であるために、好奇な目で見られることがないとはいえない。戸籍上の性と実際が異なることなどにより、職業を自由に選びにくい現実もある。しかし、「今の状況を現実として受け止めたい」と二人は思っている。