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ふらっとへの手紙

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2009/12/17
ふらっとへの手紙from釜ヶ崎vol.1


釜ヶ崎からアートという手法で社会と自分を問い続ける こえとことばとこころの部屋 代表 上田假奈代さん

地続きなのに社会から分断されてきた釜ヶ崎

  母親が詩人だったこともあり、幼い頃から詩というものが生活や人生の傍らにありました。けれど文学を専門に学んだことはありません。むしろ名付けられないような表現をする人たちとかかわりながら、わたし自身の表現をつくってきました。あえて呼ぶなら「アート」が一番すんなりきます。
 2002年、経営破綻した都市型遊園地、フェスティバルゲートを活用し現代芸術の拠点形成事業を立ち上げた大阪市から声をかけていただき、「こえとことばとこころの部屋(通称ココルーム)」として入居しました。「アートを仕事に」と意気込みました。経営は厳しく、休みなく深夜まで一生懸命働きましたが、建物から一歩外に出れば、アルミ缶を積んだ自転車や段ボールを積んだリヤカー、あてもなく歩いている野宿状態の人たちがいます。釜ヶ崎のことを何も知らなかった私にとっては衝撃的な光景でした。わたしが仕事にしたいと思っているアートは、この人たちのお腹の足しにもならないのでした。ココルームに併設したカフェには釜ヶ崎で活動している人も来てくださったので、わたしはコーヒーをサーブしながらまちの背景や現状をぽろぽろと教えてもらいました。そして、アートがこの問題に関わることはできないだろうか、という模索が始まりました。
 釜ヶ崎とフェスティバルゲートのある新世界との間には国道43号線が走っています。釜ヶ崎では労働運動や野宿者支援、NPO運動などさまざまな取り組みがおこなわれているのですが、43号線を越えたわたしたちのところには情報が届きません。また、奈良の出身で釜ヶ崎のことを知らないわたしに、大阪の人たちは「怖いところだから行ってはいけない」というばかりでした。釜ヶ崎もわたしたちの社会の一部であるはずなのに、まるで見えない塀があるように感じました。
 アートを切り口に釜ヶ崎をめぐる問題とかかわることはできないかと考え始めた頃、野宿をしていたおじさんたちが演じる紙芝居劇やホームレスの自立を支援する雑誌『ビッグイシュー』との出会いがありました。さらに表現に興味をもつホームレスの人たちとの出会いがあり、交流を通じて、わたしのなかにある偏見に気づきました。一人ひとり事情や背景が違えば、考え方も生き方も違う。多様なのです。なのに「ホームレス」とひとくくりにしていたのです。

多様であることの豊かさとしんどさと

2008年1月、ココルームは釜ヶ崎へ移りました。不安定な状況にスタッフは疲弊し、移転が決まったときには全員がやめ、わたし一人になりました。不安いっぱいの再スタートでしたが、これまでの活動で出会った人が非常勤できてくれたり、大阪市立大学との協働が始まったりと、新たな歩みが始まりました。
 ココルームは「大きなメディアが取り扱わないような情報が行き交う場」という意味をもつインフォショップを名乗っています。けれども少しわかりにくいので、何か発信したりつながったりするような場であることが一目でわかるような看板がほしいと考えました。2008年の末に派遣村が注目を集め、社会の関心が少し変わったことに「今がチャンス!」と思って、2009年夏、ココルームの向かいに「カマン!メディアセンター(通称カマメ!)」を開きました。
 ココルームやカマメ!では、警察沙汰や暴力沙汰も起こります。わたしも殴られたことがあります。しんどいことや受け入れがたいと思うこともいっぱいあります。でもそれは釜ヶ崎だからではなく、どこにでもある、「人間の本質的な問題」で、釜ヶ崎にはそれが集中しているということなのだと思います。逆にハッとさせられることにも出会い、元気づけられることもあります。多様であることの豊かさと、多様性と向き合うことのしんどさを日々感じます。
 アートはラテン語で「技術」という意味をもつそうです。わたしはそれに「生きる」をプラスして「生きる技術」と名付けたいと思っています。そして、この釜ヶ崎からアートという切り口で、社会や自分を問い続けていきたいのです。(談)

●こえとことばとこころの部屋(ココルーム)のHP
http://www.cocoroom.org/

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