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ユニバーサル社会の実現は私たちの意識次第 阿部彩さん

2013/03/07


このまま貧困の拡大や格差の固定を受け入れていくのか

阿部彩さん

――たとえばシングルマザーは8割以上が働いていますが、平均収入は約291万円で子どものある全世帯の平均年収の約4割にすぎません。自立を望み、努力をしても、児童扶養手当などを受給しながら綱渡りの生活です。それなのに自立、自立といわれることに、私自身シングルマザーとして憤りを感じています。

 安い給料に上乗せする手当の部分を充実させるのではなく、自分の収入だけでまっとうな生活ができる労働政策をつくっていくというのが本来あるべき姿で、ユニーバサル社会が目指す方向です。それが究極の自立ですよね。
 私は「残余的システム」と呼んでいるのですが、困窮した「かわいそうな」人たちに最低限の手当てをしましょうというのが今のシステムです。もちろん手当てを必要としている人たちがたくさんいますから、今すぐ変えろとは言いません。現状に対処しながら、けれども同時にユニバーサル社会への移行を進めていかなければ、将来的にはギリギリのお情けの給付で最低限の生活をおくっている層とそうでない層がきっちりできあがり、貧困世帯に育った子どもはなかなか貧困から抜け出せない社会になってしまうと思います。

――ユニバーサルな制度に移行していくうえでの課題は何ですか?

 私たちがどんな社会をつくっていくかという意識をどこまで共有し、それぞれに引き受ける覚悟をもつか、ですね。居場所や役割をもち、自立し、安心して暮らしたいという思いは同じでも、それが具体的にどういうことなのか。
 所得制限を設けないユニバーサル制度は、一見無駄だと思われるところが多くあります。たとえば富裕層にも子ども手当を支給するなどですね。医療や教育も所得に関係なく無料にするとなると、必ず「所得の高い人の分まで社会が負担するのはおかしい」という意見が出ます。けれどお話ししてきたように、ユニバーサルであることに意味があるのです。今のようにできるだけ小さな財源でやろうとすれば所得制限がどんどん厳しくなり、状況のひどさを比べ、よりひどい人しか"恩恵"が受けられない、そして受けた人には厳しいまなざしが向けられるということになります。それは本当に怖い社会です。
 もちろん、財源は大きな問題です。財源を確保するには、最低賃金で働いている人でも税金を払えるようにしなければならないし、高所得の人は税金もより多く払ってもらわねばなりません。労働市場や税金のシステムを変えるという大きなチャレンジです。
 貧困問題をどう解決するかというアイディアはさまざまな立場の人が提案していますが、「埋蔵金があるんじゃないか」「富裕税をつくってお金をもっている人間からとればいい」などと自分は痛みを避けながら解決しようというマインドでは前に進みません。日本はアメリカのように富裕層が多いわけではないので、富裕税を導入してもそれほど収入は見込めません。中間層やしんどい人も含めて、つまり私たち全員がそれぞれに痛みを分かち合うつもりで向き合わなければ。
 自分よりしんどい人たちが楽になるとともに、自分たちがもっとしんどくなった時のためにどんな社会に変えていくか。このまま貧困が拡大し、格差が固定され、しんどくなった人を容赦なく切り捨てていく社会でいいのか。今、私たちの社会は大きな変わり目にあると思います。

――ありがとうございました。

(2012年12月インタビュー 取材・構成/社納葉子)

『弱者の居場所』/阿部彩著 『子どもの貧困』/阿部彩著

阿部彩 プロフィール
国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部長。研究テーマは、貧困・社会的排除、公的扶助論、社会保障論。おもな著書に『子どもの貧困――日本の不公平を考える』(岩波新書)、『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂』(講談社現代新書)