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多民族共生

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2014/01/23
この社会が私の「ふるさと」。だからこそ差別を許さない。 人材育成コンサルタント 辛淑玉さん


人種差別を放置する国家、階級化が進む社会

――人権尊重や差別撤廃に取り組む市民活動はずっとありながら、そしてその理念はとても「正しい」のに、社会全体に広まってこなかった。けれどヘイトスピーチはあっという間に裾野を広げた感があります。この違いはどこにあるのでしょう。

辛淑玉さん

 私たちは思想信条で運動してきた部分がありますが、彼らは非合理ですよね。歴史も理論もなく、ただ差別を暴力的にまき散らすだけ。非合理なものに思想信条で立ち向かっても勝てるわけがないんです。けれど従来の運動側は自分たちの「正しさ」をあくまで押し通そうとする。古いですよね。

 ヘイトスピーチに対するカウンターを呼びかけると、「あの人がいるからイヤ」「あのグループがイヤ」と言った挙げ句に、「辛さんはあの人たちと一緒にやるのか」と踏み絵を踏ませるんです。

 うちは後発です。後発っていうのは、すべての先人に対して「(運動を)やっててくれてありがとう!」って頭を下げないと。「この人はいい」「この人はイヤ」なんて評価できる立場じゃないのです。

 「正しい運動」をやる人たちがマイノリティを「殺す」ね。あの人たちは「美しく」なきゃいけないんだよね。

 私ね、金城実(沖縄出身の彫刻家、活動家)に初めて会った時、頭をぼこぼこに殴られながら「部落と朝鮮が上品でどうする! もっと野蛮になれ! 野蛮になれ!」って言われたんですよ。殴られながら「この野蛮人!」って思ってたけど(笑)、でも彼の言葉は正しい。

 私たちは過剰適応したんです。日本人に愛される朝鮮人になりたかったんですよ。だからきれいで、きちんとした言葉を話せて、論理的な話ができる朝鮮人になりたかった。

 でもね、どんなに適応しても差別が終わるわけじゃないの。

――ヘイトスピーチを繰り広げる人たち、支持する人たちはどういう人たちなのかを取材、分析する本も出ています(『ネットと愛国』、『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』など)。けれども彼らがどういう人物なのかということより、社会がそれを「ノー」と言わない空気が怖いと感じています。

 ヘイトスピーチをするグループのベースになっているのは中産階級の下のほうのクラスではないかと感じています。本当に貧しい人たちはあんなことをやっているヒマも技術もありません。そもそも労働の現場は国際化してますから、彼らはいろいろな民族の人たちと一緒に働き、隣り合って生活しています。

 ネットで公開されている映像をみると、ちゃんとした服を着て、連携できるスキルがあって、いいカメラで撮影してネットにつなげる技術もある。中産階級ですよ。ただ、これから「落ちる」のではないかという恐怖がある。それをぶつけられているんだと思います。

 彼らが置かれている状況を理解することを否定はしませんが、まずはこれが「人種差別」だということをちゃんと言わないと。そして一番の問題は国家がそれを放置しているということです。

 「のりこえねっと」の事務所は在日外国人が多く住む東京都新宿区の大久保にあります。そこでも事務所を借りるのに4カ所ぐらい断られたの。結局、日本の人の名義で借りました。やっぱりこの街は外国人には貸してくれない。問題を起こすからって。

 それから、私もあまり自宅に帰れなくなるだろうと思って外国人専用のシェアハウスを一部屋借りようと思ったのね。寝るだけならそれで十分だから。そうしたら「在日朝鮮人はダメです」と言われました。「外国人専用」と謳っているところは「在日だからダメ」で、一般的な不動産は「外国人はダメ」と言われる。これが在日の現実です。そして毎週、私たちを「殺す」と叫ぶ人たちがデモをする街で暮らしているわけです。すごいと思いませんか?

 それに対して政府も地方自治体も何もしていない。何もしないというのは、肯定するという意思表示ですよ。だから私たちは自分で立ち上がるしかない。この闘いは、一部のヘンな人たちとの闘いではありません。人種差別を容認する国家と、行き場のない恐怖や憎悪をマイノリティにぶつける人たち、つまり上からのレイシズムと下からのレイシズムに挟まれてサンドイッチ状態のなかでの闘いです。

 サンドイッチの中身は、今は朝鮮人かもしれない。婚外子かもしれない。沖縄かもしれない。でも次は「あなた」ですよ。
 
 これからの社会は中産階級が上昇していけるような社会ではありません。少数の社会的地位や権力をもった人たち同士がつながり、圧倒的多数のもたざる人たちは、努力するしないにかかわらず、排除され、貧しくなっていくでしょう。そうなると教育だって満足に受けられない。そしてますます選択肢がなくなっていく・・見事な階級化です。

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