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2014/02/20
「ブラック企業」に潰されないために 泣き寝入りが蔓延に拍車をかける NPO法人POSSE 今野晴貴さん


今やどの企業もブラック化するリスクがある

――相談の実例を教えてください。

今野晴貴さん

 年間2000件近い相談を受けていて、内容はさまざまですが、例をあげるとーー。

  • IT・情報関係の会社に勤続5年目の女性(32)から、「月間の残業200時間の結果、朝起きられられなくなった。病院に行き、鬱病と診断されて治療中で、休業3か月目だと。休業にあたって、会社から労災の説明はなく、私傷扱いになっていて、納得できない」と相談があり、労災申請についてのアドバイスをしました。

  • 食品輸入の会社に入社して1年の女性(25)からは、パワハラと賃金未払いの相談。仕事上の小さなミスを、人前で2時間怒られた後、2週間にわたって毎日3時間『君の人間性がおかしい』と言われ続け、鬱病を発症した。8時から19時30分まで、週6日の勤務で、給料は総支給額16万円、手取り11万円の基本給だけとのことで、弁護士を紹介しました。

  • 団体職員の男性(25)の母親から、「上司が代わってから、大声で叱責されることが多くなり、『生きているのが辛い』などと言うようになり、遺書を書くに至った。病院で鬱病と診断され、退職願を出したが、本人の記憶は曖昧になっている。両親から上司との面会を会社に何度も求めたがかなわなかった」と相談。「本人の回復を待ち、仕事の話ができるようになったら、まず労災申請をすべき。その際には弁護士を紹介する。本人が自己否定にならないように励ましてあげて」とアドバイスしました。

 労使関係がなく「35歳定年で何が悪いのだ」と思っているような会社に勤め、「我慢していれば、何か恩恵が受けられる」といった社員の信頼感や期待を逆手にとり、平気で恐ろしいことをされたという相談が多いですね。精神疾患をかかえている人からの相談も増えました。

 相談を受けていると、ブラック企業は、恐ろしいことをされた社員に、「自分が悪いんだ。能力がないんだ」と思わせて自己都合退職に追い込んでいき、泣き寝入りさせるのがすごくうまいと分かります。

――当事者は、本気でヤバいと思ったら、その会社を辞めるのが先決でしょうか。

 まあそうですね。ところが、若い人たちは、社会の適切な水準が分からないから、「君は社会人として失格だ」と言われ、判断がつかなくなっちゃう。親世代に「君たちも甘い」とか「石の上にも3年」だとか言われる。

  「君たち甘い」などと言う発言は、人権侵害に加担するようなもの。いじめの被害者に「いじめられる方に問題がある」、ストーカー被害者に「変な男に手を出したからいけない」と言うのと一緒で、加害行為に加担することだと、親世代は自覚しなければならないと思います。

 当事者は辞めるにあたって、ただ辞めるだけだとその会社も社会も変わらないので、被害の実態をしっかり訴えてほしいんです。

 ブラック企業は、公害を出す企業と同じで、被害者が泣き寝入りしていたら続きますが、訴えられて初めてストップということになるからです。

 そのためには、客観的な証拠が必要です。残業代を取り戻すためにパソコンのログイン記録を保持するなど勤務記録をつけておく。パワハラなら、ICレコーダーで録音しておくといった、データを取りましょう。そして、一人で悩まないで弁護士や労働組合など専門家のところに相談にいくべきですね。

――田村憲久厚生労働大臣の「ブラック企業といわれる、若者を使い捨てにするような企業をなくしたい」発言。実態調査もありました。

 厚労省の「ブラック企業調査」は、対象となった5111事業所のうち、82%にあたる4189事業所で労働基準関係法令の違反が見つかり、是正勧告を行ったと発表されました。大きな成果ですが、離職率の高い企業への狙い討ちだったので、実証できたのが82%だけだということは、逆に言うと2割は突き止められなかった。証明するのが難しかったのだと考えられます。

 若者が使い潰されると、税収が増えない、医療費や生活保護費が増大し、少子化にもつながります。また、こうした手法でブラック企業が利益を上げると、まともな企業が駆逐される。ブラック企業問題は、人権侵害であると同時に社会問題なんですね。

 それにもう一つ。新興企業でなくても、どの企業でも、今やブラック化するリスクがあるということ。コンサルが入った途端、「全社員を辞めさせ、契約社員に代える」となった電鉄系のバス会社もありました。誰もが、ブラック企業の手口を知ると共に、労働法を勉強し、労働者の権利を知っておく必要があると思います。

――ありがとうございました。

(2013年12月24日インタビュー 取材・構成/井上理津子)

 

今野晴貴(こんの・はるき)さん
1983年、宮城県生まれ。NPO  POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍(社会政策、労働社会学)。2006年、都内の大学生・若手社会人を中心にPOSSEを設立。年間2000件近い労働相談を受け付けている。2013年に大佛次郎論壇賞、流行語大賞トップ10受賞。著作に『ブラック企業』(文春新書)、『ヤバい会社 餌食にならないための労働法』(幻冬舎文庫)、『生活保護 知られざる恐怖の現場』(ちくま新書)、『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)など。

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