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助産師が来ない?

 産科医らの言い分の中で、ちょっと待てよ、と言いたくなることは他にもある。それは「助産師が来ない」という言い分だ。
 ある産科クリニックがお産の扱いを中止することがテレビニュースで流れた。その産科が配布した「分娩取り扱い終了のご案内」という文書では、その筆頭にこういう理由が挙げられている。
「厚生労働省看護課長通知によって、看護師による分娩時の内診が禁止されたこと」
 これには少し説明が必要だ。「分娩時の内診」とは、妊婦の膣内に指を入れて子宮口の開き具合などを確かめることで、分娩の経過観察を目的としている。
 看護職の業務を規定した「保健師助産師看護師法」では、分娩の監視・介助は助産師の専門業務であることが定められている。助産師とはそのための国家資格であり、専門の学校を出て助産師国家試験に合格をした者でなければ、その業務を行なうことはできない。
 助産師は昔「産婆」と呼ばれ、かつては独自に開業して日本のお産の大部分を担っていた。しかし戦後、産科医があちこちで開業するようになって以後は、開業助産師は高齢化もあって激減し、現在は病院などに勤務する助産師が多い。
 開業産科医らの多くは、スタッフには助産師ではなく看護師・准看護師を雇った。「医師の補助」を求めたことや、給料の安さも関係したと思われる。
 しかし看護師・准看護師には分娩に関する知識がない。そこで産科医らの団体は、「産科看護研修学院」という研修機関を全国に設け、そこに看護師・准看護師、ときには無資格者までを送り込んでノウハウを学ばせ、修了者に医師の補助として分娩監視や内診を行なわせてきた。だがこの学院はあくまで法律外のいわば私塾のようなものであり、研修内容は厚生労働省でも「不明」とされている。
 産科医療の被害者グループの調べによって、さまざまな産科医療事故にこの学院を出た「ニセ助産師」がからんでいることが判明したのが1999年。それを受けて厚生労働省は2002年に、看護師・准看護師による内診など助産業務は違法であることを各都道府県と日本産婦人科医会に通知した。
 先に挙げたクリニックの文書に出てくる「厚生労働省看護課長通知」とはこのことを指している。
 これに対して産科医の団体は、「看護師らによる内診は、助産師が産科開業医のところに勤めないから、やむを得ないのだ」と主張した。そして一般の開業医も、「助産師はいくら募集しても来てくれない。かといって看護師の内診はダメだというならお産は扱えない」と言うようになった。

助産師偏在の理由

 たしかに助産師は現在、大きな病院に偏在しているといわれる。給料の格差もあるだろうが、理由はそれだけだろうか。
 何人かの助産師に話を聞いてみると、こんな声が聞こえてくる。
「開業医院に勤めたこともありますが、一律に陣痛促進剤を使ったり、平気で無資格者に内診させたりしてて、妊産婦の状況や気持ちよりも医師の方針が優先される。こんなところにいたら助産師としてダメになると思いました。二度と勤めたくない」
「これまで無資格者に内診させてたところが急に助産師募集って言っても、医師の考え方が変わらなければ絶対に嫌ですね。」

 もちろん、そんな産科医院ばかりではない。同じ産科医院でも、助産師が何人も勤めるところや、スタッフのほとんどが助産師というところもある。そういう施設の一つで出産した人が、こんな話を聞かせてくれた。
「お産は複数の助産師さんだけで、ドクターは扉の外でこっそり覗いてる感じでした。生まれた直後、赤ちゃんの顔色があまりよくなかったんですが、そのときにドクターが『ごめん、ちょっとだけ酸素あげさして』と言って遠慮がちに入って来ました。酸素をあげると、赤ちゃんの顔色はみるみるよくなりました」
 お産は病気ではないとはいえ、医師が側にいることは、何かあったときのことを考えると心強い。だが、「どのようにいるか」ということも今後は考えられるべきだろう。

 ともあれ、訴訟を起こす患者と同様、助産師の偏在にも理由があったのだ。

妊産婦・母親の声を聞こう

 産科医療が「崩壊」しつつあるのだとすると、それに代わる新しいお産サポートの仕組みを作らねばならない。
 産科医不足が叫ばれているが、助産師たちに言わせると、彼らの激務は自分がすべてのお産を仕切ろうとするところから来ている、ということになる。
 もちろん医師は医師としての責任感で動いているのだろうが、それではいつまでたっても任せられる助産師は育たず、医師一人がきりきりまいをし続けたあげく疲れ果てて辞めていく悪循環は断ち切れない。産む側としても、疲れ果てた医師に診られるのでは心許ない。

 したがって、新しいお産サポートを考えるには、「誰が」とともに、「どのように」という中身の議論をしなければならないだろう。
 そのときに重要なことは、当事者である妊産婦や母親たちの声を聞くことだ。
 とくに、病院・開業産科医院・開業助産所など、複数の場所での出産を体験した人たちに話を聞くと、それぞれの施設のメリット・デメリットが浮かび上がってくる。お産にかかわる専門家には、それぞれの利点を活かしてうまく連携していくことが求められている。

「訴訟が多いから」「助産師が来ないから」といった産科医たちの言い分について考えてみたが、結局、訴訟のことは訴訟を起こす被害者に聞けばその理由がわかるし、助産師の偏在は助産師に聞けばその理由がわかる。それをせずに自分たちの大変さだけを主張しても、大事なことは見えないだけでなく、責任を弱い立場の者へと押し付けることにもなる。

 同様に、今後のお産サポートを考えるために厚生労働省や産科医の団体がまずやるべきことは、妊産婦・母親へのヒアリングだろう。受け手の声を聞くことは、今後あらゆる医療問題を考える上で共通の必須条件となるはずだ。

text:松本康治(1962年、大阪生まれ。1987年、さいろ社を設立し、医療問題を中心とした出版活動を行う。同社代表、編集者。http://www.sairosha.com

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