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上手に選んで、生活の幅を広げよう

浜田きよ子さん そんな中で、身体の不自由な父が、自分が気にいれば積極的に新製品を試用し、高齢者の視点でいろんな考えを話してくれたり、いろんな使い勝手を言ってくれたので、とても参考になりました。ある時、尿もれが始まったことが分かって、失禁パンツを渡してみたのですが、なかなか使おうとしない。なぜかなと思っていたら、それは男女共用の前が開いていない形で、それまでと同じ排泄動作ができないのが嫌だったんです。そんなことからも、いろんな排尿の形があることを知らされました。
 足が悪いのに「杖なんて年寄りが使うものや」と嫌がって使おうとしないうえ、歩行機を勧めてもすごく抵抗した父ですが、たまたまメーカーさんが真っ赤なアメリカ製スクーター型の電動車椅子を持ってこられたら、若い頃よくスクーターに乗っていたので気に入って、すぐに乗り始めました。最初は三輪で、体調が悪くなってからは四輪に乗り変えて、最後の入院の前日まで喫茶店や市役所にまで行っていました。研究所の動く宣伝マンでもあったんです。
 そういう意味では、用具は気にいって使いたいという気持ちがすごく大切だと思いましたね。福祉用具というと、どうしても周りのお仕着せで「これを使いなさい」という格好になってしまいがちで、上手くいかないとすべて用具のせいになるんですけど、実際は選び方を間違っていることが多いんです。
 人には百人百通りの暮らし方があるわけですから、商品にするには本当に必要なものなのかを充分に選り分ける必要があります。特に、身体状況が悪くなった方に対しての用具選びは、一人ひとりに合わせないといけないので大変難しい。車椅子などはモジュールといって調整機能がいっぱいあって、かなりの期間使えるものが今ではメインになりつつあります。

使いやすい道具に慣れて、心の老化を予防

ファッション感覚で選べる「木製カラフルステッキ」
ファッション感覚で選べる「木製カラフルステッキ」

 介護が必要な人のための介護用品を紹介する一方で、福祉用具を大きくとらえ、介護まではいかないけれど、年齢を重ねることで不自由になることを解消できる面白い用品を提案していくことも、研究所の大きなテーマとしています。こうした用品は、それまでのご自分の暮らしを継承できて、介護予防にもなる力をもった用具ばかり。元気に暮らす工夫がいっぱいの用品です。
 たとえば、1,000円の小さな「ゴムマット」ですが、これを湯舟にかけるだけで滑る心配がなく立ったり座ったりできます。手すりまでは付ける必要のない方でも、湯舟のふちがツルツル滑って不安だと思われる方はこれだけでいい。ふちが滑らなければ姿勢保持ができて、お風呂の出入りが安心です。
 また、「靴べら付き杖」は、リウマチの方からの「短い靴べラだとひざを曲げないと靴がはけないので、杖にも使えて、長い靴ベラになるものってできないだろうか」というご相談からできたものです。これだと杖の先で靴を引き寄せて立ったまま靴が履けるので、外に行くのが安心になったという声が返ってきています。

 他にも、上の割れ目に糸をかければ針穴に糸が通る「縫い針」や、メガネをかけるほどではないけれど小さい字は見えにくいという方に便利な「拡大鏡付き携帯ストラップ」、ファスナーが対角線状に開いて高齢者でも取り代えやすい「布団カバー」、どんな姿勢でもすんなりと立てる10センチほどの厚みのある「座ぶとん」など、ちょっとしたことで安心して暮らせる道具ってたくさんあるんです。目が少し悪くなっただけで好きだったこともできなくなっては不便ですし、その人の生活のかたちも変わっていく。そんな時に便利な道具を見つけて上手に使えば、それまでと変わらない生活ができていく。好きなことが続けられるんです。

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