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生活に根ざした言論とっ経済活動こそが未来を切り拓く。慶應義塾大学教授 金子 勝さん

 勝ちか負けか、官か民か、賛成か反対か。ここ数年、議論を深めることなく、二者択一で重要な選択を迫られることが多い。冷静な分析や判断よりも気分や感情が優先しているとはいえないだろうか。メディアも市民も「思考停止に陥っている」と指摘する経済学者・金子勝さんに、その背景と対応策を伺った。

「自己責任」という考え方が社会的無責任を生み出す

―――ここ数年、年金や急激な少子高齢化が盛んに取り沙汰されています。将来を楽観できる材料が何もないような気になってしまうのですが。

 ぼくは、将来に対する不安というより、今がどういう状態なのかを理解できない人が多いような気がしています。
 ここ数年、「小さな政府」「官から民へ」「規制緩和」「構造改革」などといった“呪文”の繰り返しのなかで、一種の思考停止に陥らされているのではないでしょうか。規制緩和から民営化、自由化が進むと必ず“抜け穴”が拡大します。国のチェック機能が働かないために、ごまかしが横行するんです。耐震強度偽装問題やライブドア事件が典型です。気がついた時には市場という仕組みそのものが崩壊しかねないような状態になってしまうというパラドックス(逆説)に直面する。今はそんな状況だと思います。
 もちろん古臭い規制や一部の利得だけを保護するようなルールを変えていく必要はあります。けれど一切の規制を外して市場に任せれば何もかもがうまくいくというものではありません。たとえば銀行の不良債権問題を思い出してください。バブル時代の無軌道な貸付や投資がバブル崩壊とともに巨額の不良債権となりました。本来なら経営者の法的責任を問い、一気に公的資金を強制投入して、貸し倒し引当金を積んで企業再建に取り組むべきでした。ところが経営者の責任を問わないまま、ずるずると公的資金を入れたため中小企業の貸し渋りや貸しはがしが横行しました。そして財政金融政策を破綻させてしまいました。

―――民営化、自由化が進めば、品質やサービスが向上し値段が安くなるというイメージがありますが。

 物事はそう単純ではありません。「早く安く」という競争力を身につけるには、どこかで無理をしなければならないんです。コスト削減のために膨大なフリーターが生まれ、どんどん所得の低下が進みました。この間増えたのは年収入200万円以下層です。そのなかで大量のワーキングプアが生み出されました。一方、公共事業に代わって 「改革」利権で政官財の癒着は一部の人々に富をもたらします。また、耐震強度偽装問題やライブドア事件に見られるように、レフェリーもルールもない市場が作り出されかえって人々に重大な損害をもたらします。

―――「自己責任」という言葉はすっかり定着しましたね。

 これほど都合のいい言葉はありませんよ。たとえば労働市場の「構造改革」で、「自己責任」と称して成果主義を導入したり、非正規雇用をどんどん増やしてきました。企業にとってはおいしい話でしょう。しかし年収150万円ぐらいのフリーターでは自分のことで精一杯、「結婚できない、まして子どもなんてとても産めない」と考えるのも当然です。結果的に若い世代の婚姻率も出生率も予想を超える勢いで下がっていくという現象が起きています。
 このように、自己責任を前面に出してやっていけば、究極的には社会的無責任が生じるのです。一人ひとりが悪いわけではなく、子どもが減ること自体が悪いわけでもありません。ただ、人口増加や経済成長率が「ある」ことを前提にした年金制度をはじめとする社会制度がもたなくなり、人びとがますます不安になってしまうのです。

 
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