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戦後60年と人権
子ども虐待
ネットと人権
子ども虐待ー子どもの権利、子どもの人権ー

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「情報の共有」を阻むもの−行政システムの課題−

「なぜ、連絡してくれなかったのか」。
 2001年1月、兵庫県姫路市で発生した6歳男児のせっかん死事件は、当時10歳だった児童の姉が「登校していない」と学校から市教育委員会に報告されていた。しかし県姫路こどもセンター(児童相談所)には伝えられていなかった。同センターでは事件の半年前から各機関の情報を共有するために小中学校や医師会等と対策協議会を設置していたのだが・・・・。姉の情報から虐待を早期発見できたかもしれない、と関係者は機関連携の機能不全を悔やんだ。事件の背景に縦割りの弊害と虐待に関する認識不足があったことは否めない。
 緊急性がなくても虐待のおそれのある子どもに関しては、関係機関が連携し情報の共有化を進めて観察していかなければならない。時には妊娠時から保健婦等が関わりを持ち、長期にわたるフォローが必要な場合もある。
 
 しかし自治体の子ども施策の管轄は妊娠から出産は「母子保健」、保育所は「児童福祉」、幼稚園や小中高校は「教育委員会」となり、問題行動に対処する場合は「青少年対策」や「児童相談所」と窓口が分散している。

 幼児検診で保健婦や児童福祉課の職員が親子をフォローしていても、小学校入学後は、子どもの問題は学校に委ねなければならない。しかし小学校はプライバシーの問題を重要視し、児童の家庭環境にまで介入していくことを避ける傾向があり、ここで子どもへの目配りがとぎれてしまうことがある。こうしたときに地域や家庭と上手くコミュニケーションをとってきた行政職員の人事異動等が重なると、情報の引き継ぎはさらに粗雑になる。職員間の引き継ぎのスキ間、認識の相違が虐待の見落としにつながったケースもある。もちろん、異動によって熱心な職員が着任する場合もあるが、短い場合には3年ごとに変わる職員と新たに信頼関係を築き、子どもを見守っていくには相応の共通認識が必要だろう。
 
「児童福祉に関心の低い上司や担当者が配属されて、本当に迷惑がかかるのは当事者である子どもや親なんです」。行政内部からも、苦々しい声が聞こえてくる。縦割り行政、スペシャリストを育てない人事システムと虐待の見落としは無関係ではない。

民間団体や関係機関との連携

「親の更正プログラム」は児童虐待の根本的な問題を解決するために、ぜひとも取り組まなければならない課題である。しかしその一方で専門職員の絶対的な不足、さらに情報が遮断されがちな縦割り行政の問題など行政、専門機関にも構造的な問題がある。これらの現状を受けて、児童虐待防止法では「関係機関や民間団体との連携の強化と、虐待防止のために必要な努力義務(第四条)」が課された。民間の潜在能力を活用し、官・民協力体制のもとに虐待防止に取り組もう、というものである。
 しかし、ある関係者は「法律は民間団体に連携の強化を求めてきますが、そのための財政的な支援については何もふれられていません。専門機関の守秘義務の壁は厚いし、お互いに経験不足ということもあり、法律にうたわれたからといって民と官の連携が飛躍的に進むとは考えられない」と言う。また、法律でこのように明記されても連携に消極的な児童相談所は少なくない。守秘義務のない民間団体と連携して重要な情報が一人歩きしてしまうことを恐れているからだ。しかし「民間だから守秘義務が漏れるというのはおかしいのではないか」と先の人物は語る。
 
 児童相談所、地域、学校、保健所、民間機関等で何月何日、何時に虐待児童を保護しようと決定し、いざ踏み込もうというその直前になって親に知れてしまうことがある。
 
「学校の先生が情報を漏らしてしまうことが何度かありました。親も先生には心を許していることが多く、相談を受けているあいだに、不憫に思って話してしまうのでしょう。まさに、あなただけに・・・という感じでポロリと・・・。情報を聞かされた親は引き離されることを恐れて子どもを連れて逃げてしまうんです」。公的な機関だから守秘義務が徹底しているとは限らないし、虐待に関する認識が低い場合もある。逆に、児童虐待を扱う民間団体の方が守秘義務、法律面についても豊富な知識を有し、専門性を高めているところもある。民間団体が、在野で多くの親子をサポートしてきた実績は見逃せない。
 守秘義務については東京都の場合、児童相談所と民間団体である子どもの虐待防止センターが協定書を結び「守秘義務について共通の認識をもつ」ことで課題をクリアしている。複雑、かつ深刻な事件が多発する今日、もはや専門機関の機能だけでは子どもは救えない。虐待防止の最前線にいる職員たちにとって、経験と柔軟性、横断的な情報ネットワークをもつ民間機関との連携がもたらすものは決してリスクにはならないだろう。

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