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高齢者

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2000/06/22
シルバーハラスメントを考える シリーズ第3回



聞こえますか?痴呆高齢者の心の声
医師であり同会の副代表理事で、この調査の研究委員会の一人である三宅貴夫さん(54歳)は、「痴呆高齢者が人間性を損ない、精神的に不安と恐怖の中に置かれ、安全のためといいながら、かえって生命を脅かされる拘束は、基本的には完全撤廃しなければいけない」としながら、「非常にデリケートな問題だけに、介護や拘束の経験を積み重ね議論する中で、どうすれば拘束が減らしていけるかというノウハウと、拘束がなぜいけないのかという理念を並行して考えていかなければ」と話す。在宅介護で買い物に行く間だけ部屋にカギをかけたりすることを抑制や虐待と呼べるのかなど、抑制や拘束の言葉の曖昧な定義づけをきちんとしなければ論じ合えないと指摘している。
「安全を守ることもケアであり、自由を守ることもケア。その一方を守るために相反することをして拘束と決めつけるのではなく、大切なのはそのバランスです」
その上で拘束をなくすには、介護職員の数の増加と質の向上、施設長の前向きな方針、オンブズマン的機関の導入が必要だろうとしている。介護保険施設では拘束が原則禁止となるが、施設によっては拘束禁止規定があるために『拘束が必要となるような人はお断り』となる可能性もあり、『うちでは拘束はしません』と言いながら、入口で振り分けが行われるのではないかと懸念する三宅さん。痴呆高齢者が気持ち良く暮らせる環境づくりでいちばん必要なのは、「彼らが置かれた状況の中で、ものを考えていくといった視点、つまり、痴呆高齢者の声なき声に耳を傾けていく姿勢ではないか」と語った。



介護者同士の励ましが、介護の原動力に
家族の会への電話相談にも「拘束」の相談は寄せられている。
「ショートステイを利用したら、 転落防止のためとヒモの跡形が紫色に残るほどに車いすに縛られたなどといった相談はありますね」と、同会理事で電話相談員である荒綱清和さん(60歳)。そうした相談には断定した答えよりも、「拘束しなければいけないほどの症状が本人にあるのか施設の指導員と穏やかに話し合ってみたり、施設を変えてみるのも一案ではないか。また、施設の職員とコミュニケーションができていない段階で批判するよりも、家族の希望を伝えながら施設の考えも積極的に聞くことも大切」と提案するという。
同会のホームページにも「食道ガン末期で何も食べられず点滴のみだった父が、両手を抑制され1カ月ほど上を向いたまま。終末期に意識がなくなっても抑制は続き、自分の手でほどいてあげ、翌日亡くなった。看護って何だろう」という体験談が綴られている。
荒綱さんはいう。「在宅介護では、泣きながら自分の親に手をあげてしまったという人もあるし、私自身も経験者。毎日の介護では、批判されようと実際にそうせざるを得ない時もある。でも、母のお尻に自分の手形が薄く残っているのを見て、空しい思いをするのは自分。だからこそ、買い物に行って母の好物を見れば食べさせたいと買ってしまうのが家族なんですよ」
荒綱さんも若年性痴呆の母の介護で行きづまり、会に参加した一人。母は痴呆に加え、転倒して胸椎の圧迫骨折で寝たきりになり、その間に妻の手術、手伝ってくれていた妹の過労での入院、まだ小学生の子どもたちと、悪夢のよう介護の中で入会した。当時、痴呆の福祉サービスは全くなく、これほど大変な介護はないと思い込んでいた時、それ以上に大変な介護者から逆に励まされたのだ。「あの人たちも頑張っているんだから、私もきょう1日は頑張ってみよう」と、その励ましが1日1日の介護の原動力になったという。
家族の会の相談員は、介護経験者がほとんど。経験者だから、介護の苦労が即座に通じ、しっかり受け止められることで、本音で話し合える。形は違っても同じ介護をしている者同士だと、介護にも勇気が湧いてくるそうだ。 「ある相談者にはグチを1~2時間も聞かしてもらう。話すことだけでストレス解消 になって、話し終える頃には声も随分明るくなられるんです。寄り添える相談でいい。 自分だけが孤立してない、誰かに支えられているということで安定した介護が続き、 虐待や拘束が未然に防げるのではないでしょうか」

「ぼけ」そのものへの理解が全くなかった会結成時から20年。痴呆高齢者への差別や偏見はまだまだ根強いが、家族の会の地道な歩みと提言が、行政施策に少なからず影響を与えているのは事実である。ぼけても安心して暮らせる社会とは、すべての人が暮らしやすい社会なのだから。


呆け老人をかかえる家族の会
会誕生のきっかけとなったのは、1977年京都新聞・社会福祉事業団主催の「高齢者なんでも相談」。ぼけのコーナーを担当していた医師の早川一光さんと三宅貴夫さんは、相談者のその後を気にかけ、家族同士が集うことで、よりわかり合えるのではないかと「つどい」の開催を呼びかけた。家族は'79年6月から月1回集うようになり、家族会の結成に向けて準備。'80年に「呆け老人をかかえる家族の会」が発足した。事前に新聞報道されたことで九州や東京などからの参加もあり、全国的な組織としての出発となった。いま早川さんは会顧問、三宅さんは副代表。当時、痴呆高齢者の福祉サービスは全くなく、結成後、行政施策の充実を求めて厚生省へ要望書を12回提出。在宅介護に欠かせないショートステイ、デイサービス、ヘルパーの派遣制度設置などにつながった。'92年には、国際アルツハイマー病協会(本部ロンドン)に加盟。50の国、地域の民間団体からなり、毎年の国際会議には代表団を派遣している。3名の事務局員以外はすべてボランティアで構成。北海道から鹿児島まで全国39の都道府県に支部をもち、会員数6400人。会費は個人会員が年間5000円。
所在地/京都市上京区堀川通丸太町下る 京都社会福祉会館2F
TEL/075-811-8195 FAX/075-811-8188
ホームページ/http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.htm
Eメール/afcdejpn@mbox.kyoto-inet.or.jp
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