ふらっとNOW

高齢者

一覧ページへ

2003/04/04
どんなに身体が不自由になっても、その人らしく暮らせるように手助けするのが「介護」じゃないですか?


周りのほんの少しのサポートで、高齢者の意欲はわいてくる

全国から寄せられる愛らしい手作り品
全国から寄せられる愛らしい手作り品

介護という言葉に集約したくない試みとして、もう一方で、高齢者の手作り作品の収集と展示及び販売をやっています。年に1回は作った方に値段をつけてもらって、大きな展示会も開いているんです。
以前、私が高齢者のお宅を訪問した時に、帰りに手作りのお土産をくださって、それをたまたま知人に見せたら、欲しいと言ってお金をムリヤリ渡されまして。それをご本人に伝えたところ、お金が嬉しいんじゃなくて、お金を出してまで自分の作品を欲しいと思ってくださった気持ちが嬉しいと言われたんです。
考えてみると高齢者の方って、いい技を持っていながら、その作品が人の目にふれる機会がなかなかない。要介護で身体が不自由でも手仕事は上手な方もいらして、周りから欲しいといわれると励みになってどんどん頑張られる。また、脳硬塞で倒れてもう作れないとあきらめていた女性も周囲から作品を求められ、それで頑張って作られるようになって何よりのリハビリになっているんです。作品は「ハマグリに入ったお雛様」だったり、「草のわらじ」や「水引きの七福神」、「繭玉のブローチ」だったり。貴重で可愛い物がたくさん全国から集まっています。
そういう意味では、単なる博物館的に見せるだけではなく、手仕事の文化を伝えながら紹介していくのも大切ではないか、十分実用性のある物を日本の技として伝承できればいいと考えています。

人にあてにされることが大切なんや

83歳で亡くなった私の父は、脳硬塞で右半身が不自由になっても、自分の生き方を変えようとしなかった人でした。足がおぼつかなくなって時間がかかっても、花に水をやり、洗濯をし、ゆっくりゆっくり歩いて買物に行く。帰りには、道端でいつも父を待っている犬にパンを出してやり、なじみの喫茶店でコーヒーを飲み、スポーツ新聞を読んで帰ってくるんです。麻痺した手でネクタイは結べないのでループタイをし、転ぶと危ないからと必ず帽子をかぶり、滑らない靴をはいて出かけてました。家の中で見てても、尻もちをついたり、頭を打ったりしながらも、ギリギリのところで行動してた。ですから、入院中にオムツが必要になって、交換のときには私たちの手を借りても、あとは指図するだけ。身体が弱っても、精神的に「要介護老人」になろうとしなかった。こういう姿勢が元気の源になっていたのだと思います。
その父が、「年寄りって意欲がないと言うけど、意欲ってそんなに簡単に湧いてくるもんやない」とよく言っていました。「若いころと違って周りも期待してくれへんし、仕事もないし、家族に迷惑をかけたらあかんと外出も控えてしまう。人にあてにされることが大切や。意欲をなくすのは周りのせいでもあるんやで」って。これは意味の深い言葉だと思います。父は、「喫茶店のママも、果物屋のにいちゃんも、スナックのママも、エサをやる犬も、みんなに待っててくれるから」と出かけていたんです。

濃密になりすぎた関係を解きほぐしていくのが役目

浜田きよこさん 高齢生活研究所での相談は基本的に無料。顔を合わせると言いにくいのか、電話相談も多いです。介護はいろんな人間関係が絡みますから、第三者が簡単に口を出せる問題ではないので、最初は聴くことに徹します。そのうち少しヒントが見えてきたら「こういった方法はどうですか」と提案する程度。いくら相談されたといはいえ、人の暮らしに踏み込むことですから、その辺はすごく慎重でありたい。それぞれの暮らしには想像を超えたものがあって、高々私が生きてきた年数では理解できないことがたくさんある。それに関して偉そうにものを言うことは絶対できないと思っていますので、「人の暮らしは絶対わからない」を前提に、でも「何か役に立ったり、助言できることがあれば」という気持ちを心掛けています。
相談内容は本当にいろいろ。いちばん印象的だったのは、介護しているお母さんの枕が毎朝おしっこでぬれていて、部屋が臭くてたまらないという娘さんからの相談でした。以前から2人の仲は悪く、いやいやの同居。加齢とともに母親の身体が悪くなり、娘さんにはたまらないという思いがあり、母親も世話をしてくれてる娘に対して済まないという気持ち一つ持てないという関係でした。
結論をすぐに出しては、介護する気もそいでしまうので、最初は「大変ですね、お辛いですね」とじっくりと聴き、スタッフも交えて相談にのる中で「お母さんも寂しいのかもしれませんね」という話が出るようになって、3回目で枕がぬれる原因を見つけるために「同じ部屋で寝てみたらどうですか」と提案しました。最初は嫌がっていた娘さんも、試してみると徐々にコミュニケーションができてきて、母親の枕がぬれなくなったんです。そして、3~4日後にはお母さんが「いろいろ世話になってありがとう」と初めて言われて、枕の話は解決しました。
介護というのは身体や物の問題だけではなく、ものすごく人間関係が絡んでいる。その関係が濃密になり過ぎると、渦中にいる人には見えなくなるから、第三者が上手にいろんな助言をしたり、時には情報をお伝えして、いくらか解きほぐしていくのがいい。それが私のお役かなと考えています。

関連キーワード:

一覧ページへ