ふらっとNOW

高齢者

一覧ページへ

2003/06/20
よい介護は、よい介護関係から生まれる よい施設は、ベッドで見分けられる


施設選びは、メジャーを持って

部屋の写真 もしあなたの親が施設に入所することになったら、何を基準に選びますか。選び方のポイントは、老人が主体になってるかどうか。まず、見学を断るような所はダメですね。「自由に見てもらって、聞きたいことがあったら老人に聞いてください」というようなら、かなり自信を持っている所。とにかく自分の親の運命を託す所だから、資料に頼らず実際に何度も足を運んでみて雰囲気をみなくちゃね。
メジャーを持って、施設に行けばいい。ベッドや椅子、テーブルの高さを測るんです。ベッドは寝返りができる幅で、老人が座ったときに足の長さにちゃんと合って、足が下ろせて立てること。片足、片手でベッドから起き上がろうとしたら、最低1メートル幅のベッドが必要で、高さは40センチが理想です。病院のように医師や看護婦が主体で、医療を施しやすいようにベッドが高くなっているのは仕方ないけれど、寝返りもできない高くて狭いベッドが、寝たきり老人をつくる要因だといっていいくらいなんですから。

テーブルは老人のおへその高さでちょうどいい。外国製のテーブルだと、日本のおばあさんなら生首が並んでる状態になってしまう。そういう所は老人を利用して儲けている施設だと思ったほうがいいですよ。それに、温泉のような大浴場つきなんて、豪華な設備に目をくらまされちゃダメ。突然、機械で浴槽に入れられると、老人はお風呂だと思わず興奮して眠れなくなったりする。家庭と同じ小さな浴槽ほど安全で自立できるんです。自分の老いや障害になかなか適応できないでいる老人に、環境や生活習慣まで変えてしまったら、痴呆や障害が悪化するのは明らかです。
職員も多ければいいって問題じゃない。数より何をするかが問題です。余裕をもって手足を縛って歩いていたら困るじゃないですか(笑)。言葉づかいにしても、大切なのは状況判断能力。丁寧にしゃべるだけじゃなくて、この場面で私と相手の間でどういう言葉を使えばいいか。それぞれの関係性で「クソ婆あ」でいい人もあれば、様づけが似合う人もいる。何でもマニュアル化してしまうと「状況判断するな」ということになってしまうんです。

人権も人間対応がいい

『完全図解 新しい介護』
家庭で突然、介護が必要になった時、何から始めればいいのだろう。
生活の中での知識と方法を具体的に教えてくれる新しいタイプの介護事典。
『完全図解 新しい介護』(講談社・3800円)
※本をクリックするとamazonの購入ページへリンクします

老人の人権を考えて特養などを全室個室にすればいいと意見がありますが、個室を喜ぶ人ばっかりじゃない。形だけを変えようとするよりも、人権も人間対応でいいし、多様であっていいんです。ある特養で個室と2人部屋、引き戸で区切れる4部屋を造ったところ、入所する老人の希望で、4人部屋から埋まっていきました。日本人が年齢を重ねてボケたりして、最後に何を求めるかというと、一般常識とはちょっと違うような気がします。 
痴呆というのは近代的自我が崩壊して、生き物に戻っていく過程です。近代的自我をもってるうちは個室でいいんでしょうが、そうでなくなった時にはどうかということなんですね。私の経験では、痴呆老人は寂しがる。障害によっては個室の必要な人もいますが、深くボケけた人ほど個室を独房と感じて、人との関わりを求めて人の声のする所や明るいほうへ集まっていくんです。実際には、痴呆に対しての一般的なイメージがついていってないと思う。個室の強制というのは、「近代的自我をもつのが人間だ」というイメージを押しつけることになるのではないでしょうか。

痴呆は陰惨な世界と思われがちだけど、すべてのボケ老人が問題行動を起こして周りを困らせているんじゃありません。問題行動の原因は生活の中にあって、たとえば、便秘が続いたり、人間関係が希薄になったりで徘徊が起きるんです。「俺は欲求不満だ、ここは自分の居るべき場所じゃない」と何かを訴えているわけです。それをすぐに痴呆のせいにして閉じ込めたりしてしまう。カギをかけて老人を閉じ込める施設もありますが、老人は閉じ込められたことが分かるから、中から腐っていくんですよ。

人が最後に求めるのは母性

介護に求められるのは「母性」。ボケて自分が誰か分からない、どうしていいか分からないのは、赤ちゃんの世界と同じです。呼べば反応してくれる優しい母親さえいれば安心できる世界。老いて求めるのは夫婦関係より親子関係なんですね。ボケて妻の名前を呼び続ける男性はいましたが、残念ながら、その逆は経験したことがありません。老いが深くなり、より自然に回帰していくと、例外なく母を求めるようになるんです。
倒れるまでヤクザまがいの生き方をして背中に刺青があったSさんも、亡くなる前には「お母さんの所に帰る」と言って困らせたし、嫁いびりで有名だったAさんも、最後にはその嫁を「母ちゃん」と呼ぶようになった。以前は介護職を「寮母」と呼んだでしょう。寮母の「母」は、母性の「母」なんですね。私も若いころは寮母という呼び方に抵抗があったし、最近は男性介護職が増えてきて、ケアワーカーなんて洒落た名前で呼ばれているけど、そういう意味では、寮母でいいんじゃないかと思う。介護職の最後の仕事は、母の役割を引き受けることなんですから。

(2003年3月3日講演会場でインタビュー)

三好春樹(みよしはるき)

1950年広島県呉市生まれ。1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務。78年九州リハビリテーション大学に入学。卒業後再び特養に理学療法士として勤務。85年退職し「生活とリハビリ研究所」を設立。各地の通所訓練や在宅訪問に関与しながら、全国で「生活リハビリ講座」を開催。著書は『介護覚え書』(医学書院)、『専門バカにつける薬』『老いの見方、感じ方』(筒井書房)、『生活リハビリ講座シリーズ』(雲母書房)など多数。

12
関連キーワード:

一覧ページへ