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2008/08/15
見なされることへの不安が部落差別を生み出す


世間の空気を変えるには・・・

奥田均さん 偏見や差別の原因でもあった、部落の生活環境は大幅に改善しました。部落に関する教育や啓発も広く取り組まれ、正しい知識をもつ人はかなり増えてきました。これから必要なのは、「部落差別をするなんて恥ずかしいことだ」という社会の空気をつくることではないでしょうか。そのために有効なのが差別を禁止する法律です。ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメント、児童虐待などは、法律ができたことによって暴力であり、人権侵害だと社会的に認知されました。法律という形で社会の姿勢を示すことで、世間の空気は確実に変わります。差別を受けている人や、教育現場や行政、企業で差別問題に取り組む人たちの力強い応援にもなります。
「世間」とは、私たち一人ひとりがつくっているものであり、私たちの意志によって良くも悪くも変えることができます。差別に傷つけられた人や現場でがんばっている人を応援する世間をつくりたいものです。

差別する「ばかばかしさ」を笑い飛ばしたい

部落差別について考える時、よく思い出すエピソードがあります。南アフリカの平和運動家、デズモンド・ムピロ・ツツ司教が来日された時のことです。当時の南アフリカは、まだアパルトヘイト政策がとられていました。大阪でおこなわれた講演会で、彼は「日本のみなさんには、皮膚の色で差別されるアパルトヘイトを実感するのは難しいでしょう」と話しかけました。そしてこう呼びかけたのです。「想像してみてください。ある時、みなさんの国で“人間の値打ちは鼻の大きさで決まる”という法律ができたとします。役所が鼻の大きさを測りに来て、何センチ以上は優等、それ以下は劣等と分けられ、住む場所や就ける職業、乗り物まで鼻の大きさで決められたらどう思いますか」
それまで静かだった会場に、「そんなばかな」と言いたげなざわめきと笑いが広がりました。ツツ司教はうなずきながら、「ばかばかしいでしょう。けれども南アフリカでは今、鼻の大きさではなく、皮膚の色で人間が差別されているのです」と続けました。講演を聴いている人たちがスーッと納得している空気が伝わってきました。
ツツ司教の話でいえば、住んでいる地面の位置で区分けされ、貶められるのが部落差別ということになります。鼻の大きさで人が人に優劣をつけることにばかばかしさを感じたように、地面の位置でそれをするのもまったくばかげた話です。
「差別はまちがっている」「人権尊重の社会を」という正論の前に、まずはこのばかばかしさを笑い飛ばす空気や共通認識ができればいいなあと思います。

(2008年6月・インタビュー text・社納葉子)

奥田均(おくだ・ひとし)さん
1952年生まれ。現在、近畿大学人権問題研究所教授。
主な著書は『土地差別問題の研究』(2003年、解放出版社)『土地差別 ―部落問題を考える』(2006年、解放出版社)『結婚差別 ―データで読む現実と課題』(2007年、部落解放・人権研究所)など。

 

本『見なされる差別』

見なされる差別
なぜ、部落を避けるのか
著者: 奥田均
出版社: 解放出版社

 

 

本『結婚差別』 結婚差別
データで読む現実と課題
ヒューマンライツベーシック
著者: 奥田均
出版社: 部落解放・人権研究所 /解放出版社

 

 

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