偏見や差別の原因でもあった、部落の生活環境は大幅に改善しました。部落に関する教育や啓発も広く取り組まれ、正しい知識をもつ人はかなり増えてきました。これから必要なのは、「部落差別をするなんて恥ずかしいことだ」という社会の空気をつくることではないでしょうか。そのために有効なのが差別を禁止する法律です。ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメント、児童虐待などは、法律ができたことによって暴力であり、人権侵害だと社会的に認知されました。法律という形で社会の姿勢を示すことで、世間の空気は確実に変わります。差別を受けている人や、教育現場や行政、企業で差別問題に取り組む人たちの力強い応援にもなります。 部落差別について考える時、よく思い出すエピソードがあります。南アフリカの平和運動家、デズモンド・ムピロ・ツツ司教が来日された時のことです。当時の南アフリカは、まだアパルトヘイト政策がとられていました。大阪でおこなわれた講演会で、彼は「日本のみなさんには、皮膚の色で差別されるアパルトヘイトを実感するのは難しいでしょう」と話しかけました。そしてこう呼びかけたのです。「想像してみてください。ある時、みなさんの国で“人間の値打ちは鼻の大きさで決まる”という法律ができたとします。役所が鼻の大きさを測りに来て、何センチ以上は優等、それ以下は劣等と分けられ、住む場所や就ける職業、乗り物まで鼻の大きさで決められたらどう思いますか」 (2008年6月・インタビュー text・社納葉子)
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