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障害者

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2004/05/21
障害の有無を調べることが意味するもの


優生思想とは「想像力の欠如」

最近、たまたま話す機会があった学者の言葉に深い憤りを覚えた。政府の審議会のメンバーでもある著名な生命倫理学者は、「ダウン症なんて40歳ぐらいで死ぬでしょう。親に先立つのは不孝ですよ。経済的に苦しい人もいるだろうし、そういう苦労をなくすためにも出生前診断は必要じゃないですか」と言い切った。病院建物の写真
「彼は自分がとても優秀だと自覚していて、そしてそのことがとても価値があると思っているんですね。でも優秀であることは、たとえば性格がいいということに比べてどれほどの価値があるのでしょうか。それに彼だって体調を崩して障害をもつことがあるかもしれません。誰もが“障害”を抱える可能性をもっているんです。そういうことがまったく想像できないんだなあと呆れました。優生思想とは想像力の欠如だと思います」。
大野さんの産院にも、「出生前診断を受けたうえで産むことを考えたい」という人がやってくる。そんな時、大野さんは『出生前診断』(佐藤孝道著)と自著『子どもを選ばないことを選ぶ』を読むことを勧める。「出生前診断は“いい子しかいらない”と子どもを選ぶこと。価値観は人それぞれだから否定はしないけど、選ぶからには勉強してほしい。それぐらいは“選ばれる”子どもに対する礼儀だと私は思います」という言葉とともに。

つらさを乗り越えて「また生みたい」と思えるお産を

本表紙「出生全診断」
「出生前診断 いのちの品質管理への警鐘」(佐藤孝道著・ゆうひかく選書 1,800円+税)※本の写真をクリックすると、amazonのホームページから本を購入することができます。

育つことが難しい形態異常が妊娠中期の超音波検査で見つかったことがあった。生きて産まれてくる可能性が低いことがわかっても、両親は「おなかのなかで生きている以上は育てる」と妊娠の継続を希望した。出産に備えて身体を整え、おなかの子に愛情を注いだ。ある日、子どもの心音が停止した。母体を守るため、陣痛を起こして「出産」。生まれたのは愛らしい女の子だった。両親は十分に子どもの存在を感じ、いとおしみ、悲しんだ。
大野さんは言う。「お産はつらい結果になることがあるけれど、救いは“次がある”ということ。だから“もうこりごり”ではなく、“また産みたい”と思えるようなお産にしたい。それが産科医の仕事です」。
看取るためのお産をした両親のもとに、3年後、元気な男の子が生まれた。大野さんは両親とともに幸せに浸った。春乃ちゃんにも弟が生まれた。母親は「春乃みたいに元気な子なら、ダウン症でもいい」と出生前診断をしなかった。大野さんの産院は、「またここで産みたい」という人たちでパンク寸前だ。どんな命もあるがままに受け入れ、誕生を祝福する。そんな空気が満ちた社会であれば、少子化などあり得ないのではないだろうか。出生前診断はダウン症の子どもだけでなく、人の感受性や理屈では説明できない感情、そして自然に対する畏れも否定し排除しているのではないだろうか。

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