―――「月給1万円」から脱却するために、具体的にはどんなことを提案されているんですか? 何万円も給料を出せるだけの利益をあげられる仕事は、なかなかないのが現実です。まず、「健常者」と競争し、勝たなくてはなりませんよね。それが難しい。 ―――これまでの小規模作業所について、経済的に厳しいということの他にどんな課題があったと思われますか? 作業所のなかだけで「完結」してしまうことでしょうか。仕事も食事もレクリエーションも、すべて作業所が担っているのがほとんどだと思います。特に都会の作業所はマンションの一室を借りてやっているところも多く、中に入ってしまえば外部との接点がまったくありません。
―――仕事と暮らしを分ける、余暇を楽しんでストレスを発散したり休息をとる、というのは、考えてみればごく当たり前のことですね。「このままではいけない」と危機感をもった作業所では、どんな取り組みをされているのですか? 最近のパワーアップセミナーでは、「サービス業をやりたい」というところが増えてきています。買い物代行や宅配、新聞配達など、地域のなかに溶け込んでやれる仕事をしたいという声が自然に出てきていますね。四国ではギャラリーを運営しているところがありますし、京都の舞鶴では精神障害のある人たちの作業所がフレンチレストランを開業して成功しています。京都のホテルで総料理長を務めた人を招いた、本格的なレストランです。オープンして2年、3万人のお客さんが来られたそうです。当初は地域の人たちから強硬な反対をされたようですが、試食会を開くなど積極的に地域に働きかけ、今ではすっかり受け入れられているみたいですね。大阪では受け継ぐ人のいない銭湯を借り上げ、自分たちで営業しているところもあります。思い切って発想を変えれば、さまざまなアイディアが出てくるものだと感心します。 ―――聞いているだけで楽しくなりますね。多くの方がそうありたいと望んでいらっしゃると思うのですが、現実にはまだまだ一般的ではないようです。「1万円からの脱却」に共感しても、実際には踏み出せないとすれば、一番の壁は何でしょうか。 パワーアップセミナーの参加者は、作業所でリーダーあるいは準リーダーの役割を果たしている人たちです。受講すると、みなさん「なるほど」と思う。しかしセミナーを受けていない地域の人たちに、それをどう伝えるか。作業所の方向を転換するのは、一人ではできません。みんなに考えを切り替えてもらえるかどうかが重要なポイントだし、大きな壁なんですよ。 ―――「核」になる人のリーダーシップにかかっているんですね。 ただ、女性が多く、リーダーシップを発揮して進めることがしにくいという人もいて、苦労されています。というのも、親御さんであったり、結婚していてご主人の理解のうえで手伝っているという人たちが多いんですね。そういう立場の人が経営感覚やリーダーシップを発揮しなければならず、苦労が多いようです。 ―――親の思い…切ないですね。 ええ。障害のあるお子さんを抱いたお母さんとおばあさんが来られたことがあります。お子さんはまだ1、2歳でした。おばあさんが「障害のある孫を育てていく娘が不憫だ」と泣きながらおっしゃるんですね。考えれば考えるほど、いろんなことが心配になってしまうようでした。「この先、この子はどうなるのだろう」と思いつめていたところに、ヤマト運輸が障害者の人たちとパン屋さんをやっているということを知って、訪ねて来られたんです。 |