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子ども

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2004/10/01
問題なのは子供ではなく、おとなです。


「レール」から外れることを恐れないで

今、「いい学校に入れなかったら…」「就職できなかったら…」と、「レール」から外れることをとても怖れている親が多いように思います。その点、漫画家の私はすでに外れちゃってますから楽なんですよ(笑)。それでも漫画家仲間に言わせると、まだ私はダメみたい。漢字テストで0点をとってきた息子を叱っていたら、私のほうが怒られました。「なぁ啓ちゃん。子どもはテストができなくて、先生から0点の答案を返されて、もう十分に嫌な思いをしてるんだよ。それなのに、なんで母親がまた嫌な思いをさせるの?」って。私、息子に「ごめんよ」って謝りましたよ(笑)。
ちょっと周りを見渡せば、学校や就職という「レール」から外れても、ちゃんとやれてる人はいっぱいいますよ。だから、子どもにもいろいろな人に出会ってほしい。そして「人生、何とでもなる」と思ってくれたらいいんです。「レールから外れたら大変だ」というメッセージを送られたら、子どもはきついし、親自身もしんどいでしょう。
ウチは学校を休むのも、いつでもオーケーです。先日も「今度の金曜日、遅刻するか休んでもいい?」って言うから、「いいけど、なんで?」って聞き返したら、「授業でカエルの解剖をするから」って。息子は動物好きだから、生きているカエルをエタノールで気絶させて解剖するのが耐えられない、と。私は即、「休んでいいよ」と言いました。私も昔、授業でやりましたけど、その後の人生で一度も役立ってません。残酷なことをしてまで学ぶべきものだとは思えない。カエルをペットにしている子だっているかもしれませんよね。
動物愛護というと「甘ちゃん」だの「軟弱」だのと言う人もいますが、甘ちゃんや軟弱でいいんです。血を見るのが怖くて、ちいさな生き物でも死んだら悲しいと思う子どもが多いほうがいいじゃないですか。割り切れるほうが怖いと私は思います。
後日談ですが、校長先生に子どもの気持ちを伝えたところ、カエルの解剖は中止になりました。話してみてよかったですね。

 

もう戦後でも戦前でもない

子どもの将来を先回りして心配するより、これからの日本を心配するほうが大事だと私は考えています。このままいけば、この国は間違いなく戦争をします。私は「子どもを生んで本当によかった、楽しい」と思ってきましたけど、ここへきて「しまったなあ」と思っています。今の子どもたちが選挙権をもつ前に、教育基本法や憲法が変えられる可能性がとても大きい。つまり「お国のためなら死んでもいい」という子どもをつくり、戦争へ送り出そうということです。自分の子どもがまともに戦争に巻き込まれる。それがどれくらい大変なことなのか、おとなたちはもう少し想像力を働かせたほうがいいですよ。
この春('04年)、東京都は君が代を歌わなかった先生たちを処罰しましたが、来年はもっと厳しくなるそうです。子どもが歌わないと、担任の先生が処罰の対象になるんですよ。ほかにも、ちゃんと声を出して歌っているか、生徒が真面目に歌っているか、「気をつけ」をしているか……。教育委員会が特高警察のようにチェックしに来ます。私は息子に「ママは君が代が嫌いだから、歌わなくていいよ」と言ってますけど、来年も同じことを言えるかどうか自信がありません。私に言わせれば、イラクに自衛隊を派遣した時から日本の戦争参加は始まっています。もう戦後でも戦前でもないですよ。
今、東京都内の主要な駅や空港は、どこも物々しい警戒態勢です。私が住むまちの駅でも、コインロッカーもゴミ箱もテロ対策のためにテープを貼って封鎖されてしまいました。誰のせいのテロ対策かと思うと、また腹が立つわけです。イラクに「大量破壊兵器を保有している」と言いがかりをつけたアメリカに賛同し、イラクの人たちが望んでもいない自衛隊の派遣をしたことで反感を買った結果なんですよ。人質事件にしても、自衛隊がイラクに入ったのが原因です。そういう因果関係を忘れて、「テロを許すな」だの「自己責任」だのと騒ぐのはおかしいですよね。

 

「人間が人間を殺す」のが戦争

今、憲法改定の流れが着実にできています。小泉首相も「2005年には着手する」と発言しています。2005年といえば、前の戦争が終わってからちょうど60年。今、日本にいる60歳以下は全員「戦争を知らない子どもたち」ですよ。戦争の悲惨な実態を知るおとながいなくなるのを待って、憲法を変えようということでしょうか。
70代80代の人には長生きしてもらい、戦争がどれだけ恐ろしく悲惨なものかを今こそ語ってほしいですね。政治家や軍事評論家は、「現在の最新兵器はピンポイント攻撃が可能で、無辜の市民を巻き込むことはない」なんて言いますけど、実際には多くの市民が殺されています。どんな理屈をつけても、人間が人間を殺すことに変わりはない。それが戦争というものです。
今もイラクでは毎日、人が死んでいます。だけど私たちはニュースで爆撃の跡を見ても、動揺したり怒りを感じたりすることがなくなっていますよね。戦争というものに麻痺して、鈍感になっているんです。このまま多国籍軍に参加すれば、いつかは兵器を使うことになるでしょう。そのことにも麻痺していくとすれば、とても恐ろしい時代だと思います。

2004年6月18日 インタビュー

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