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2005/08/12
自分の弱さと向き合うことから始めよう。揺れる10代とその親に伝えたいこと。


コンプレックスは自分を鍛えるチャンス

――短絡的な人はおとなの世界でも多いですね。親やおとなは、想像力や忍耐力、コミュニケーション力など大事な力がちゃんと育っているかどうかを見ておく必要があるということでしょうか。

スパーモーニング(テレビ朝日)
スーパーモーニング(テレビ朝日)

難しいですけどね。でも親が本当に子どもをよく観察していればわかるはずだとぼくは思うんです。ただ、すべての問題を親の責任にすることはできません。少年事件が起きると、親の子育てに原因を求めようとしますよね。確かに放任や虐待、過干渉があった場合もあります。だけどそれだけでもない。取材をしていると、「どこでどう曲がっちゃったのか」と途方に暮れることもよくあります。子どもの問題は一般論では片付けられないですね。むしろ簡単にわかった気になってしまうことのほうが怖いと思います。


――思春期の子どもたちにとって、体や性格に関するコンプレックスも大きなテーマだと思います。鳥越さんもあがり症というコンプレックスがおありだったとか。それを克服するために大学で合唱部のマネージャーを志望して、あえて人前で話す機会を自らつくったと著書に書かれていますね。

あれはつらかったですよ(笑)。声は震えるし、足はガクガクするし。ぼくは小中学校まではできるだけ人の影に隠れているような、すごい弱虫だったんです。でも「このままでは生きていけない」とわかっていました。そして大学生になった時、思い切って自分の弱さと真っ向から向き合おうと考えました。
誰にでも弱点はあるし、自覚もあるはずなんですね。そして弱点には向き合って、克服すべく挑戦するしかないんです。逃げてはダメ。その時はつらいですよ。だけどいつかは「あの時はつらかったなあ」と言えるようになる。
大学卒業後は、新聞記者になりました。何か特別な志があったわけではありません。7年も大学にいたうえに成績も悪かったので、入社試験だけで判断してくれる新聞社を選んだんです。入社できたはいいけど、最初は全然ダメでした。たとえば海難事故で行方不明になり生死もわからない船長さんの家へ行って、写真をもらってこいと言われるわけです。「そんなこと、僕はようやらん」と家の前を行ったり来たりしながら悶々として、結局うちの新聞だけ写真がなかったという時もあれば、「えい!」と目をつぶってお願いした時もあります。そんな経験を積み重ねるうちに、自分の弱い心を支えるものができてくる。
ぼくが今こう言えるのは、弱点と必死で格闘し、ある程度は克服できたからです。昔は絶対に嫌だったテレビの仕事もしています。でも生身の人間ですから、完全ではない。ぼくは今でも基本的に人前で話すのは好きじゃないし、緊張します。ただ緊張を集中力に変えるテクニックを身につけたということです。


――「自分は弱い」と自覚するのは、なかなかつらいですね。

鳥越さん でも自分で自分の弱さをわかっているから、他人の弱さもわかろうとするところがある。最初から「俺は強い!」と思っていたら、弱い人、罪を犯した人の心を理解しようなんて思いもしないでしょう。番組のスタッフには常に言うんです。「とても許せないと思う犯罪者はいる。だけど彼らを警察的な目で見るのではなく、本人の身になって考えてみろ」と。 警察や被害者の目で見たら、「許せない」「とんでもないヤツだ」という視点しかない。だけどそんな犯罪に走ってしまった人間の心を知ろうという姿勢が他とは違う番組をつくることに通じるんです。こういう発想ができるのは、自分がスーパーマンのように強い男ではない意識を今でももっているから。どんな事件に対しても、「ひょっとしたら俺がやっていたかもしれない」と思いますよ。ただ、ぼくは自分で自分を制御する力を身につけていただけのことです。
コンプレックスを抱えて苦しんでいる子どもたちにぜひ伝えたい。弱みは誰にでもあるし、弱い部分も含めて自分なんだと。大事なのは弱みを強みに変えることなんです。物事には必ずプラスとマイナスの両面がある。「こんな自分はダメだ」と後ろ向きにならず、「こんな自分だからこそできる」と考える。今、マイナスはできるだけ隠したり消したりしようとしますよね。だけどそれは非常に単純な、人間の本質を知らない人の発想です。弱点を認めたうえでどう対応するか。それを考えるのが人間であり、人生だとぼくは思います。

2005年4月18日インタビュー Text:社納葉子

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