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ジェンダー

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2000/09/24
フェミニズムを学び議論で男性に勝つ 遙 洋子さん2



勉強の成果は――
といえば、人と無駄なケンカをしなくなったことでしょうか。
男女についての議論をしていて、突如男性から、
「もっと、かわいい女になれ」
というような言葉を吐かれるようなことがあったため、一瞬にして相手に勝つ方法を知りたかったのです。上野教授に、
「相手にとどめを刺すのは、得策じゃない。相手をもてあそぶやり方を覚えなさい」
と言われたことが忘れられませんが、ケンカをしなくなったというのは、つまりそういうこと。「やっぱり女は」で始まる攻撃には、「だって」や「でも」と答えても、何ら発展性がないと分かった。
「女は多くを望みすぎる」
と言われた時、
「多くを望んで、何が悪い!」
と返せば、男性たちは黙る。男性の横やりをかわした上で「意見」を言う手法もあるのだ、と。あるいは、反論しても届かないような人は、相手にしないのも一つの戦い方だということも知りました。

そういう戦い方を学んだ一方で、私が属しているのは、極論すれば美しくなければ生きていけない世界、芸能界です。化粧に精を出し、老けないように努力し、胸パットを入れなければ仕事がもらえないから、私はそういうことにも励んでいる。正直なところ、自分より背が高く、がっしりしていて、ポジションも高い、いわゆる男らしい男性に、
「あなたを守ります」
と言われれば、喜びを感じるという部分も自分の中にある。旧来の男らしさや女らしさを意識した人間、少し専門的に言うと「ジェンダー化された人間」だというジレンマもあります。
もっとも、ジェンダー化された人間というのは私だけじゃない。上野ゼミの東大生にも「マッチョな男が好き」という人も、パステルカラーのブラウスに白の膝丈スカートのおねーさまもいる。そう、私たちはみんな、何らかのジェンダーを背負って生きているんです。でも、それに気づき、「今まで思ってきたことが絶対じゃない」と自分でブレーキをかけたり、無意識のうちに遣っている言葉を考え直すことができるはず。それが大切だと思うんです。

今は、男女雇用機会均等法など女性を取り巻くシステムをいろいろと享受できる時代じゃないですか。60年代の大学闘争時代の日常性の中から誕生したという日本のリブは、多くの男性に嫌われながらもこぶしをふりあげる女性がいたからこそ進んできた。そしてフェミニズム、ジェンダーと進んできて、今という時代がある――ということを認識し、先人に感謝しなきゃとも思う。
私は近頃、自治体などから、「ジェンダーの話を」と頼まれることが増えてきました。ジェンダーとは、正しくは「肉体的性差に意味を付与する知」ですが、学問と日常に「時差」がありますから、私は分かりやすい言葉で、そのヒントを話すことにしているんです。
「自分自身のことを、ジェンダーの目で検証してみてください」
のメッセージを伝えたい、と思いながら。


遙 洋子(はるかようこ)
タレント。大阪市出身。武庫川女子短期大学卒業。1986年から8年間、上岡龍太郎と組んで読売テレビ「ときめきタイムリー」の司会を務めたほか、関西を中心にテレビ、ラジオ、舞台で活躍。現在、活動の場を東京にも広げ、NHK「生活笑百科」、 読売テレビ「週刊トラトラタイガース」などに出演中。97年から3年間、東京大学・同大学院の上野千鶴子ゼミでフェミニズム社会学を学ぶ。著書に『東大で上野千鶴子 にケンカを学ぶ』(筑摩書房)。
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