ふらっとNOW

ジェンダー

一覧ページへ

2002/03/02
「男の世界」に飛び込んで 体力のハンディはあるけれど


「女性は採用しません」の壁

就職にあたっては、「男女雇用機会均等法って、どこの国の法律なの?」と感じることが多々ありました。海運会社に電話をかけると、声で女性からだと分かるじゃないですか。
「うちは採用していません」
と何度言われたことか。あからさまに「女性は採用しません」と言われたこともありましたが、多くは「採用しません」の一点張り。たとえ、その後に男性が採用されたとしても、「ちょうど欠員ができた時だったから」と応えられると、不透明なまま納得しなくちゃ仕方ない。アメリカのように、履歴書が男女の差が分からない記載方法になり、顔写真の添付もなくならなければ、雇用機会が均等にならないと思いましたね。
女性だからという理由で採用しないという会社は明らかに法律違反です。でも、私が仮に男女平等のスローガンを掲げてそういう会社に入社できたとしても、机上の空論で終わるのではないかと思い、あえて抗議はしませんでした。実際のところ、不況な上に体力が必要な男の世界の海運業界で、女性を採用したくない企業の気持ちも分からないでもないとも思いました。

帽子の写真

就職活動は“作戦”です。大学の女性の先輩からの情報で、太平洋フェリーが女性航海士を採用していると知り、社長あてに何通か手紙を書きました。「名古屋に伺いますので、会ってください」と押し掛け、「御社にとって、私は有益な人材です」と自己アピール。1人の先輩が退職されるというタイミングもあり、なんとか入社することができました。
社員の私が言うのも何ですが、太平洋フェリーは女性航海士の採用に積極的な会社。1990年に民間の海運会社で最初に女性を採用、私が6人目でした。よく言えば男女平等精神に則っての採用ですが、企業ですから女性航海士がいることによる会社のイメージアップもその目的のはず。女性航海士としてマスコミの取材を受けたり、ディナークルーズの際にスカート姿で挨拶してお客さんと写真を撮るように言われたり。職種の本質から離れた「人寄せパンダ」的要素もあるという論もありますが、私は、広い意味で男性世界に入ろうかと迷っている女性たちの何らか励みになればと思うので、この取材も受けているわけです。

刻一刻が真剣勝負

 レーダーを見る懸田さん 入社してから1年間の陸上勤務、さらに1年間の訓練生の経験の後、名古屋ー苫小牧間を運航する1万5000トンのフェリー「いしかり」の乗組員になって1年余りになります。船に乗る甲板部10人のうち、航海士は船長、一等航海士、二等航海士、三等航海士の4人。三等航海士の私は、航海中8時~12時と20時~24時が当直時間で、船長の下、ブリッジ(操縦室)の中で海図、気象、潮の様子などを見て針路を進めるのですが、航海のたびに状況が変わるので刻一刻が真剣勝負。まだまだ勉強することの多い日々です。でも、ふとお客さんたちが乗船中に陸から船を見た時など「こんな大きな鉄の固まりを動かせるなんて、我ながらすごいな」と思っちゃうこともありますね。
名古屋を夕方に出港して翌日に仙台に寄港し、翌々日に苫小牧に入港、逆コースを名古屋に戻るというのべ4日間の航路を5往復・20日の連続勤務ですので、船に乗ってしまうと仕事場所が生活場所にもなる毎日です。会社は女性航海士を迎えるにあたって別段特別の施設を設けなかったということで、プライベートルームこそ個室ですが、風呂もトイレも男女同じものを使用。風呂は「ただ今入浴中」の札を掛けて入り、始めのうち少し抵抗があったトイレも、今ではほとんど気にならなくなりました。

関連キーワード:

一覧ページへ