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ジェンダー

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2002/03/02
「男の世界」に飛び込んで 体力のハンディはあるけれど


「変革」は始まったばかり

資格に性差はありません。でも、先に言ったとおり、男女の体力の差はやはり大きい。いざ、「ロープを持って走らなきゃ」となった時、その差が出ます。ですから、この頃思うのは、もしも乗組員が女性だけなら航海は不可能だということ。どういう職場でも男女総入れ替えしてやっていけないだから、その仕事に100%性差がないとはいえない、と。
じゃあ、やっぱり女には向かない仕事なのかといえば、そうではなく、女性は体力の差をハンディだと認め、男性もそれを受け入れた上で、共にやっていくのがこれからの方向だと思うんです。ジェンダー問題は、会社もリスクを背負う。そして男女双方の問題だと思います。

操縦室で仲間と
名古屋港に停泊中の「いしかり」操縦室にて

現在、当社は航海士30人中、女性が3人。船の中は「陸」とサイクルが違います。だから、周りの人たちから、
「結婚したら辞めるんだろ」
と、これまでに何度も言われてきました。こんなことを言われるなんて、女性の先輩たちは苦労が多かっただろうなと思うと同時に、最初は腹を立てていたんですが、次第にそのような言葉をいちいち悪意として受け取ったら疲れてしまうと思うようになった。このごろは「そう。早く玉の輿に乗りたいわ」と笑って返しちゃうことにしています。男の世界だった時代が長かっただけに、歴史はそう簡単に変わらないし、今はまだ変革が始まったばかりの時期、と思うから。最近では、「いつまで(船に)乗るの?」と聞かれたら、「20年後に船長になれるまで頑張ります」と答えています。

名古屋港に停泊するいしかり 海運業界に限らず男の世界に踏み出すことに躊躇している女性には、「くよくよ考えず、踏み出そう」「かといって、意地は捨てよう」とアドバイスしたいです。憧れるだけでは何もならないし、意外と「案ずるより産むが易し」ということもある。けれども、意地になってもダメだと思うんです。
航海士の場合は、子どもが出来ると継続して船に乗るのが難しくなるという大きな課題があります。でも、ジェンダー問題は船の世界でも、一般企業でも同じ。男女雇用機会均等法の下で、男女平等の制度と意識は緩慢ながら徐々に進んできている中、女性側、雇用側の「お茶くみさせられるから辞める」「辞めるからお茶くみしかさせられない」という悪循環の矛盾に、いい加減にみんな気付いて、双方とも痛みが伴うことを覚悟の上でバリアをなくしていかなければ、と思います。


航海士になるには

1)中学卒業後、商船高専(5年6カ月)に進む
2)高校卒業後、商船大学・水産大学・大学の海洋学部(4年6カ月)に進む

などの方法がある。いずれも、卒業すると、航海士の国家試験のうち三級海技士(航海・当直機関)の筆記試験と講習が免除され、卒業後に口述試験と身体検査に合格すれば、三級海技士免許を取得できる。この資格で大型船の三級航海士として乗船できる。

国土交通省によると、男女別の航海士数の統計を取り出したのは1995年から。同年の総数6万3847人中、女性航海士は156人。2000年は総数5万4399人、女性航海士178人。


女性航海士の割合グラフ

懸田麻衣子さん懸田麻衣子(かけたまいこ)
太平洋フェリー3等航海士。1975年、岩手県生まれ。東海大学海洋学部航海工学科を卒業し、98年10月、太平洋フェリー(本社・名古屋市)に入社。旅客営業部、海務部勤務、航海訓練生を経て、2000年10月から名古屋-苫小牧間を運航するフェリー「いしかり」に乗務している。20日連続勤務+12日間連続休暇のローテーションのため、岩手県盛岡市の実家から遠距離通勤。好きな言葉は「一日一善」。趣味は競馬。

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