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2002/10/11
児童扶養手当 シングルマザーの現実


これ以上、家計費を削れない

厚生労働省の統計によると、母子家庭の平均年収は229万円で、一般世帯の658万円の4割に満たない。この額は、依然として残る男女の賃金格差の反映であり、実際には、子育てのために長時間労働ができず、パート勤務を余儀なくされる女性が多いのが現実だ。さらに、ただでさえ求人が少ない不況下で、子どもを抱えた女性が正社員を希望しても、就職先を見つけられるケースは少ない。

母子家庭の母親らでつくる「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」が昨年末から今年初めにかけて実施したアンケート調査(回答数183人)によると、シングルマザーの養育費を含まない平均年収は158万円。児童扶養手当は123人が全部支給、27人が一部支給を受けていた。就労形態は66人がパートかアルバイト、63人が正社員、現在無職だと答えた26人のうち20人が失業・求職中。

受給者からの質問などに対応する「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」のメンバー

受給者からの質問などに対応する「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」のメンバーたち

「ひとり親になって年月がたつにつれて、収入が上がったか」の質問に、「同じくらい」と答えた人が43%と最も多く、次いで「下がった」が33%、「上がった」と答えた人は11%。元夫から養育費を受け取っている人は全体の45%だが、「その養育費はあてにできるか」の問いには「できない」が71%。「生活が苦しいと感じて悲しくなったり、生活意欲をなくしたりすること」は「よくある」「たまにある」が計87%。「児童扶養手当が支給されなくなったら、家計のどこかを削れるか」の質問には「いいえ」が67%で、「はい」の33%を大きく上回った。
この調査を担当した赤石千衣子さんは、「3年前にアンケートをとった時、年収200万円以下の人が全体の33%だったが、今回は76%が200万円以下。全体に年収が下がり、失業率は一般平均の倍以上だった」と話す。


「家計簿を示せ」はプライバシー侵害

新制度での「養育費申請書」が受給者あてに役所から送付された7月末から、「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」の事務所(東京都)には、受給者たちからの問い合わせが増えた。制度改定にともなう受給額の質問とともに多いのが、申請書類についての疑問を投げかける声だった。

「(前略)住居の賃貸借契約書の写しや預貯金通帳などを見せていただくなど、適正な支給を行うために、皆様のプライバシーに立ち入らざるを得ない場合があります(中略)。万が一、偽りの申請など不正な手段で手当を受給した場合については、児童扶養手当法に基づき、(1)お支払いした額を返還していただくことがります。(2)3年以下の懲役、または30万円以下の懲罰に書せられることがあります(後略)」
このように書かれた案内と共に、「家計の収入・支出状況について」として、養育費額など家計の収入のほか、食費、光熱費、家賃、医療費、教育費など支出を細かく記載し、預貯金の取り崩しや借金額まで記入する欄のある申請書類が、いくつかの自治体から届いていたからだった。

「すべての受給者に事実婚の疑いをかけて家計まで示せというのは、プライバシーの侵害です。確かに法文上は3年以下の懲役うんぬんはあるが、ことさらに強調して案内にまで書いてきたのは明らかな嫌がらせで、現におびえている人も多い。生活保護制度以上に収支まで書かせて個人情報を収集するのは、明らかに母子家庭の人権を認めていないということです」(赤石さん)

この書類様式に関しては、厚生労働省がひな形として示した6月末から、しんぐるまざーず・ふぉーらむなどの当事者団体などが、「プライバシーを侵害する内容」だと厚生労働省に強く抗議。7月中旬に「収支は記入不要」との回答を得ていたのだが、その通知が全国の都道府県に届くのが遅かったこともあり、「記入必要」としか理解できない上記の書類をすでに受給者あてに発送した自治体があったためである。

神奈川県川崎市に住む上田貴代さん(47=仮名)は、上記のいきさつを知らずに、旧形式の申請書類を受け取った1人。「書類を読み、書くうちに、腹が立ち、涙が出てきた。3万、4万の手当をもらうために、屈辱を受け、“丸裸”にならなければならないのだったら、もう要らないと言いたい。だけど、受給せずに暮らしていけない自分が情けなくなった」と言う。その後、いきさつを知り、収支欄を無記入にして申請した。上田さんは、「でも、よく考えてみたら」と続ける。ひとり親の子であろうと、ふたり親の子であろうと、『子ども』には扶養される権利がある。そのために、所得の低いひとり親の家庭が国から手当を受けるのも当然の権利だと思う、と。

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