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2002/10/11
児童扶養手当 シングルマザーの現実


養育費を受け取れるシステム作りが急務

制度改定により、収入に加算することになった父親からの養育費に関しての問題も浮上している。離婚した父親にも、もちろん子どもを扶養する義務があるが、離婚母子家庭で養育費の取り決めがあるのは35%、実際に支払われているのは21%に過ぎないというのが現状。取り決めがあるのに養育費支払いが行われなかった場合、調停証書や公正証書など執行力のある文書がなければ、給料を差し押さえるなどの強制執行はできない。支払い実績を申請しても、それが継続するかどうかは不明だ。また、子ども宛に「扶養料」として振り込まれていれば、「養育費」に該当しないといったあいまいな見解を疑問視する声も多い。

アメリカでは1988年、母親に代わって州政府が養育費を離婚した父親から徴集する「児童養育費履行制度」が制定された。ドイツには、子どもの年齢と支払う親の年収に応じた養育費の相場表があり、規定額が支払われなければ州政府が立て替え徴集する制度が設けられている。フランスやイギリスにも、養育費の支払いを担保する制度がある。日本でも、最高裁と厚生労働省がドイツなどを参考にして、養育費の標準額や支払い手続きに関するガイドラインが検討されているが、策定されるまで時間を要しそうだ。

「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」の事務所には、今日も問い合わせのFAXが届く
「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」の事務所には、今日も問い合わせのFAXが届く

「養育費は、子どもの父親から確実に受け取れる制度を作ったうえで所得に算入するのが筋で、養育費は子どもの父親から確実に受け取れる制度を作ることが先決です。政策の順序が逆。自助努力だけでは、安定収入を確保できない社会の仕組みがある以上、所得保障としての児童扶養手当は、決して削減対象にすべきものではないはずなのに」としんぐるまざーず・ふぉーらむのメンバーらは話している。

さらに、これまで、「子どもが18歳の3月31日まで」だった支給期間が、手当の支給開始から5年、または支給用件に該当してから7年に期間を限定する法律の制定が、10月18日から始まる臨時国会で予定されていることも問題だ。
なお、今回の制度改定にともない、従来から行われていた母子福祉貸付金の中に、手当の受給額が前年度より減額される人を対象に、その差額を無利子で貸し付ける「特例児童扶養資金」が創設された。

 

「母子家庭等自立支援策」を有効なものに

一方で、厚生労働省が打ち出している「母子家庭等自立支援策」に注目したい。シングルマザーが児童扶養手当を必要とせずに暮らしてゆけるよう、就労や生活上において支援する事業を制度化しようというもので、2700億円の予算がついたとこのほど発表された。臨時国会で法改正案が成立し、2003年4月から実施されると見られている。
支援策として、目下「審議中」の主な項目は、次のとおり。
(1) 介護人派遣事業の再編・抜本的拡充。
(2) 保育所の優先入所。
(3) 指定教育訓練講座(パソコン技術、介護ヘルパーなど)の受講料の8割、30万円を限度に支給する「自立支援教育訓練給付」の創設。
(4) 介護福祉士など長期の訓練を受ける場合の訓練促進費(月額10万円程度)を支給する「高等技能訓練促進費」の創設。
(5) 技能修得中の生活資金(月額14万円程度)の無利子貸付制度の創設。
(6) パート雇用の従業員を常用雇用に転換した場合、事業主に支給する「常用雇用転換奨励金」(30万円程度)の創設。
(7) ハローワークと提携し、求人情報の提供や就職・能力開発など自立支援の相談を行う「自立支援員」の自治体への設置。



児童扶養手当の給付水準
児童扶養手当の給付水準(母と子ども一人の世帯)
出典:児童扶養手当制度の改正について(厚生労働省)


「本来、先に『自立』が可能な社会システムをつくり、そのシステムのもとで一定の所得基準によって、収入の安定した人の手当が減額されてゆくのが筋ですが、減額制度が実施された8月から支援策が実施されるまで8カ月のブランクがあるのは、順序が逆。しかし、自立を促す施策に力を入れるという方向性は理解できるので、支援策が真に有効なものとなるように国や都道府県、各市町村に働きかけてゆかなければ」

こう話すのは、大阪市西成区で夜間の共同保育に取り組むなど、ひとり親家庭の当事者グループ「トライ!あんぐる」を主宰してきた安田幸雄さん。国で制度化されても、それにともなう費用は4分の1が市町負担という自立支援策が多く、実施主体も市町村(施策により、また、都道府県により変わる)であるため、どの程度に効果的な制度が提供されるかは、自治体の力量次第ということになる。
「介護人派遣事業を拡充しようにも、介護人のなり手がいない。また、教育訓練を請けて資格を取得しても、母子家庭を理由に就職先の門戸が開かれていなければ『就労支援』にならないなどの問題を解決するため、総合的なシステム作りが必要になってくる」と安田さんは指摘する。

10月~、大阪市などで「相談会」開催

当事者団体の働きかけなどにより、大阪市では、児童扶養手当申請者宛に「児童扶養手当証証書(通称:認定証)が送付される10月から11月にかけて、各区で、母子家庭の相談にきめ細かく答える「相談会」が実施されることになった。大阪市民政局児童福祉推進課の話によると、通常、各区役所の健康福祉サービス課でも随時、相談を受け付けているが、この相談会は母子家庭の母親らが利用しやすい時間帯を考慮して、夕方以降の時間にも開設。「特例児童扶養資金」など母子福祉貸付金の案内をはじめ、就労支援の施策を詳しく案内する予定という。

「大阪では、相談した人に、2003年度の国の自立支援策が身近な自治体で実施された時に、優先的にその施策が提供されるように申し入れています。今回の制度見直しをバネに、母子家庭の母親が自立でき、かつ差別を受けることのない社会の仕組みづくりに向けて母子家庭当事者が声をあげ、身近な自治体に働きかけてゆきましょう」と、安田さんは呼びかけている。

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